※MOVIE大戦MEGAMAX後。さらっとネタバレな話。
君の欲、君の望み、君のやりたいこと
「火野君。まだ先の話にはなるが、アンク君を甦させる際に人間の肉体を与えるというのはどうかね?」
ハイテンションにオーバーアクションで語る鴻上に僅かに視線を向けた映司は、パソコンにデータを打ち込んでいた指を止めた。そのまま、鴻上に僅かに視線を向け、ゆっくりと静かな声音で答えた。
「全力で却下します」
「ほう?」
「それ、誰かのDNA情報から造ったクローンを器にして、って技術ですよね? ホムンクルスについてはノブナガ君の時に暴走を起こして失敗してますよね? そして、その騒動を片付けたのって俺でしたよね?」
「そうだったかな?」
「ガラの騒動も、あれ、鴻上さんの仕業だったって後で聞きましたよ。俺たちがどんだけ苦労したと…」
「そうだったかな」
「気のせいかな、俺の戦いって全部、鴻上さんから派生してませんか? アンクと出会ったあの美術館も鴻上さんのでしたし」
モニターを見つめたまま映司がぼそっと呟けば、後方から気の抜けた口調で秘書の里中が言ってくれた。
「火野さん、それ気のせいじゃないと思いまーす」
「……」
「はっはっはっはっは。全てに偶然は無いのだよ。必然があるのみだ」
「会長、それ、意味が分かりません」
里中のやる気のない突っ込みを背に、はぁ…と大きく息を吐き出す。
すっかり気が抜けてしまう。
データの打ち込みは程々にして、また情報集めの旅に出る準備でもしようか。
もう一度、ドイツ東部や現在のポーランドなどの土地へ行くのも良いかもしれないな。
次の行き先をぼんやりと思い浮かべる。
かつて、共産圏だったこともあって、経済、技術の発展が西側よりも遅かったことにより未開発のまま残っている土地も多い。数多い戦禍を免れていれば何百年も前の資料が現物と共に見つかる可能性も高い。
また新たな情報に出会えるかもしれない。
薄く口元だけで笑い、映司は会長室の片隅に置かれたデスク上のパソコンを操作しデータ保存の作業に移った。そして、パソコンの電源を落とし、立ち上がる。
「あ、火野さん。お帰りになるんでしたら、ケーキ食べて行ってくださいね。これ半分は火野さんのご帰還祝い兼ねてますから、責任持って食べてください」
「……」
本当に、この会社はマイペースな人間ばかりだな。
ゆっくりと微笑が苦笑へと変わるのが自分でも分かった。
相変わらず、傍らには鳥のグリードの気配を感じる。
姿を認識することは叶わないままだが、ふとした時にあの赤い右腕の存在を感じるのだ。
ここはちょっと物騒だな…と感じた路地に差し掛かった時、視界に赤い羽根がよぎったり。思わず足を止めれば、その目の前を銃弾が掠めていったこともある。あと一歩足を進めていれば、流れ弾の餌食になっていただろう、という状況だった。
「お前、そこにいるんだな。何、お前が付いてないと俺ってそんなに危なっかしい?」
何も無い右側上空を見つめ、映司はそんなことを呟いた。風が吹き抜け、「この馬鹿が」と言われたような気がした。
結果的に「映司を守る」ことを貫いてくれた鳥のグリード。「俺が付いていないと相当やばいだろ、あの使える馬鹿は」そういって己の最後の最後まで映司を生かす道を指し示してくれた怪人。
この魂と呼んでいいのか思念体とでも呼べばいいのか、そんな存在になってまで、映司の側に存在してしまっているのは、映司の、映司たちのアンクの存在を望む強い欲望のせいだろうか。
生きている、生きていた、その満足感を得て消滅という結末すらも面白いと受け入れていたアンクを、映司の強い欲望の力は中途半端な存在にしてまで地上に引き留めしまったのだろうか。
何、邪魔してくれてんだ、この馬鹿が!
そう怒られるだろうか、そんなことを考えたこともあった。
それでも、もう一度アンクと向き合いたかった。もっとちゃんと話をしておきたかった。
俺はもらってばかりで何も返してないよ、アンク。
コアメダルの力を全く諦める気の無い鴻上。今はその鴻上と手を組んでいると言っていい。
アンクのコアメダルを元に戻す方法を探す傍ら、資金援助も兼ねて鴻上の研究の協力をしていたりもする。
冬に起きた隕石落下による横浜埠頭沖での時空の歪み。そこで起きた戦い。再会。
その戦いの中で映司は、自分の行動に自信と覚悟を改めて抱いた。
コアメダルを元に戻して、アンクを取り戻して、それからどうするつもりなのか、そう言われれば返答に窮するのは確かだった。
人間とは違う、人間になれることもないし、彼から見ればひ弱で脆弱な人間なんかになりたくもないだろう、アンクは。
それなのに彼を取り戻したいのか、彼はそれを望むのか。
そんな思いに揺れることが多かったこの数ヶ月。
人間の欲望の固まりから生まれ、人間の欲望に翻弄され、最後も人間の欲望の為に消えていった存在。今更、その人間というものになりたいと思うとは、どうしても思えなかった。
しかし、時空の歪みを通って来たのだろう、姿を自在に変え、映司にすら擬態してみせたあのアンク。
確実に完全体以上の力を持っていたといえたあのアンク。メダルで構成されたグリード体のまま、しかし、今までになく表情豊かで、アイスの味を明らかに選んで食しているようにすら見えた。
そのアンクが映司を助ける為に、オーズへ変身する力を再び与える為に、姿を見せた。
近い未来か遠い未来かは解らないが、アンクは甦っているのだ。甦れるのだ。
そして、アンクは映司の行動に一切の不満を言わなかった。
つまり、アンクは復活というものを不快に思っていない、ということだろう。でなければ、わざわざ映司を助けるために時空の歪みに飛び込みはしないはず。
俺は、このままお前を取り戻す研究を続けてて良いんだな、アンク。
そう右側上空を見つめ映司は呟いた。
好きにしろ、そう言うように空気が優しく動いた。
「しかし、まあ、本当にさ。あの時は驚いたよな」
棒アイスを食わえながら映司は自分の右肩辺りに視線を向けた。
「お前の気配を後ろに感じてたのに、目の前にもアンクがいてさ。一瞬、誰かの刺客か?とか思ったよ。後ろでお前もなんか狼狽えてる気配があったし」
うるさい、というように風が髪を揺らす。
「警戒する俺に、目の前に現れたお前はさ、そこの俺も俺だが、この俺も俺だって意味分からなくなること言うし」
再び、空気が動いて風を感じる。うるさい、とまたも言われた気がした。
「でも、俺が持ってるお前のコアメダルは割れたままだった。ああ、何かあったんだなって、きっと目の前のお前は一時的に俺に見えてるだけなんだろうって、そう思った」
少しの間、そして、今度は優しく風が頬を撫でた。
映司は口を閉ざし軽く目を瞑る。それから、ふぅ…と小さく息を吐き出した。
「どういうことか解らなかったけど、またお前の姿が見れたのは嬉しかったよ。お前に会う為にこのまま進み続けて良いんだって、思えたし。俺は間違えていないって思って良いんだって――、」
不意に僅かにだが頭が重くなる。どうやら見えない右腕怪人はこのまま寝るつもりらしい。これ以上、映司の話を聞く気は無いという意思表示だろうか。
「重いよ。なんでいっつもそこで寝ようとするんだよ、お前」
頭上の重みは何の返事も返してはくれないままだ。黙ってろ、とでも言ってる感じだろうか。
映司は明日のパンツに包んでいた割れたコアメダルをそっと持ち上げる。
おやすみ、とメダルに向かって呟けば、なぜか頭を叩かれるような気配を感じた。俺はここだと主張しているのか。
「どっちでもいいじゃん。面倒臭いな、お前」
苦笑を一つ。映司は再びコアメダルを明日のパンツに包むと、頭に重みを感じながら今日の寝床へと潜る。
これからも、まだまだあちこちと情報集めの為に飛び回らなければ。
それでも、焦りは絶対に禁物だと、自分に言い聞かせながら映司は目を瞑った。
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11.12.20
完全に映司さんの独り言。
色々ごちゃごちゃ妄想。
要するに、私は腕アンク状態のアンクが好きだという。
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