※MOVIE大戦MEGAMAXの後の話ということで。さらっとネタバレ。

 

 

共にある記憶

 

 

 

 

 

「ねぇ、映司君。アンク、すごく柔らかく笑ってたね。でも、何かね…。何か、すごく優し過ぎて、切なくて哀しくなってくる笑顔だったよ」
「うん。そうだね。あいつ、すっげぇ穏やかに笑ってた。でも、すっごく切なそうだったのは分かる」
「アンクのいる、いつかの明日で、アンクは幸せを掴んでるよね?」
「俺たちが、そのいつかの明日で会うアンクを幸せにしてあげないとね。まずは、人間ドックかなぁ」
「え?」
「ちょっとさ、自分の体もちゃんと大事にしようかと思って」
「うん? それは良いことだと思うけど、いきなりどうかしたの?」
「長生きするために、病気の原因になるものは早めに見つけて治してしまわないと!」
 いきなり健康を気にし始めた映司を比奈は不思議そうに見つめていたが、映司はただ長生きしないとな、と繰り返していただけだった。


 あの時の映司たちの前に現れたアンクは、ミハルやポセイドンが通ってきた同じ次元の歪みを通ってきたはずだ。それ以外に時空を抜ける手段は無いはずで。
 しかし、おそらく同じ四十年後という時代から来ていながら、ミハルは「火野映司」も「オーズ」も知らなかった。全く知っている風ではなかったのだ。
 映司の性格から言って、鴻上がミハルに接触する前にミハルと出会い、色々と助けていておかしくないのに。
 あのアンクの、映司たちを遠目に見つめてくる時の眼差しの愛おしさの籠もった優しさ、切なさ。あれは、アンクも映司に「会う」のが本当に久しぶりだったということではないのか。
 思ったのだ。アンクはかなり早い段階で、もしかしたら五年や十年で甦っている。しかし、四十年後の時代にはもう映司は存在していないのではないか、と。

 俺、絶対に無理やらかして体壊して早死にしてるのかもしれない。それとも、グリード化の名残が俺の体を蝕んでいたとか、そういうことも考えられるな。

 四十年後でアンクは一人で過ごしているのではないのか。比奈や後藤はいるかもしれないが、どう考えても六十歳前後。アンクが一人で会いに行くようには思えない。
 映司はアンクを無事に復活させて、それからきっと一緒にあちこち見て回って過ごすのかもしれないが、そんな生活は十年かそれくらいで終わってしまっているのではないのか。

 あいつは案外律儀に「飽きるまで墓守でもしながら生きていてやる」とか言ってそうだし。

 もう二度と変身する力もメダルも無くしていた映司に、アンクはコアメダルを丸ごと置いて行ってくれたのだ。映司に再び変身し戦う力を与えてくれたのだ。
 アンクの行為に報いるには、健康には気を使ってこの先を戦い生き延びることが何よりだろうと、映司は一人結論付けていた。

 もう絶対に、お前にそんな表情はさせないからな、アンク。












 時空の歪みを抜け、メダルからグリード体へ戻し、人間の姿を取る。
 地上に降りることなく、そのままアンクは羽を広げ空を舞った。目指すのは、住宅街から離れた高台にある墓地。

 四十年前、映司の傍らで意識体だったが時空を越えて姿を表した自分と会った。そして起こした行動と内容をしっかりと見つめていた。
 復活してからは、映司と何度もこの来たるべき日に備えてあれこれと話をしていたものだった。
 だから、四十年後に当たるこの年に入ってからずっと、ミハルという少年を見張っていた。彼の元にメダルは集まるはずだから。
 そして、数刻前にその光景に出くわし、力を制御出来ずにポセイドンと化したミハルを追って時空の歪みにアンクは一人、身を投じたのだ。
 そうしなければ、アンクと映司の再会という記憶が消えてしまうから。
 アンクのこの行動が、あの時代の映司に影響を与え、残して来たコアメダルやミハルの置いて行ったスーパーコアメダルを元にしてタカコアメダルの復元の成功と、メダルで構成されていながら人間に近い感覚を持った形での復活を果たせたのだから。
 人間が無数の細胞で体を構成されているのなら、アンクは無数のメダルで体を構成しているだけの違いだ、と笑った映司。
 スーパーコアメダルの使用については、問題があればあの時の運行を守るデンライナーが乗り込んで来るでしょ、とあっけらかんとしたものだった。
 あの戦いから五年ちょっと。十年にも満たない歳月でコアメダルの研究を完成させていた映司。
 その後、映司と過ごせたのはわずか十年足らずだったが、本当に面白い日々だったと思う。

「やることはこれで全部終わったぞ、映司」
 ただいまの代わりにそう言うつもりでアンクは高台に降り立つ。
 そして、感じる違和感。
「……?」
 なんだ? 何かがおかしい。
「映司の墓が、無いだと?」
 何が起きたのか。
 何だ、これは?
「あ、やっぱりここかぁ。ここが俺の墓の予定地?」
「!?」
 聞き飽きたほど馴染みすぎる声。
 何で? 訳が分からずアンクは立ち竦む。
「アンク、お帰り。お疲れ様」 
 何で? いや、何で、だと?  違う、俺は、昨夜も映司と会っている、話している?
 何だ、この記憶の違いは!?

 振り返れば、まだまだ若いといえる姿の映司が立っていた。
 記憶にあるはずのグリード化の影響や無茶を承知で酷使してきた影響から、知らず知らずの内に映司の体を劣化させていた前例の無い病に侵された、痩せ衰えた映司の姿がぼやけていく。
 そして、新たに頭の中を掛け巡る元気に笑い動き、戦う映司の姿が見える。思い出すという形で見えるのだ。
 何だ、これは!?
 記憶が幾つも交錯する。何が起きた? 何が起きている?
 アンクは思わず米神を押さえた。

「お帰りアンク。俺、頑張っただろ? 確か、お前を復活させた時に話したと思うけど、今のお前にはもう一度言っておいた方がよさそうだな」
 屈託無く笑う映司が、目の前にいた。

「俺、本当に頑張ったんだよ。メダルの研究と平行して自分の体の健康管理。鴻上さんとこで色々と調べてもらって、僅かにだけどグリード化の影響から生まれたかもしれない未知のウィルスが見つかってさ。細胞を劣化させていく悪玉菌みたいなやつ。そいつを研究してワクチン作ってもらって。それが、逆に別の細胞を活性化させてグリード化の名残を味方に付けるような状態になっちゃったんだけどね。おかげで、周囲の人から妖怪扱いされるくらいに老化が遅い体になっちゃったけど」

 何を言っているんだ? という自分の声と、確かにそんな話を聞いているという自分の声に、アンクは戸惑い続ける。

「お前を一人になんかさせないよ。俺が早々にくたばってたんじゃ、何の為にお前を復活させる研究を続けたのか意味なくなるじゃん。絶対に、お前を一人にさせないって、あの時のお前を見て思ったんだよ、俺」

 映司の腕がアンクの頭を抱き寄せるように回される。そのまま優しい手つきで髪を撫でられる。
 懐かしい感覚だ、と思う自分と、つい昨日も味わった感覚だと思う自分。

「頭の中がぐちゃぐちゃだ。俺は狂ったのか? なんで、お前の死をみてるはずなのに、昨夜もお前と一緒にいた記憶が残ってる?」

 困惑と映司がいることへの嬉しさとでアンクの声は微かな震えを見せる。

「バタフライ効果って知ってる? カオス理論の一つで、バタフライエフェクトとか色んな映画の題材にも使われてる言葉なんだけど。今度、このタイトルの映画も見ようか」
 こんな状況でも泣くものかと強情を張っているように見えるアンクを映司は抱きしめたまま話す。
「先に言っておくけど、パラレルワールドとかじゃないからね。簡略して言えば、ごく僅かな小さな行動が、後々に別の場所で凄く大きな影響をもたらす現象をバタフライ効果って言ったりするんだけどね」
 アンクは「意味分からん」と呟き返すだけでずっと映司の肩に顔を埋めていた。
「まあ、要するに、お前が時空の歪みを通って四十年前の俺のところに来て去っていった間、お前には僅かな時間になるんだろうけど、あの時から俺が頑張って非常に長生きする体になる人生を歩んだんだよ。だから、お前が知ってる未来が、過去の俺の努力によって今現在の俺が元気に存在してる未来に塗り変えられてるってこと」
 なんだそれは。そんなことが、あるのか。
「そもそも、時空に穴が空く現象が起きてるのに、努力で未来を変えるくらい不思議じゃないでしょ?」
 確かに、過去を思い起こせば、死別などの別れは無いまま、ずっと映司の側で過ごす日々が蘇る。そんな光景が脳裏に浮かぶ。
「バカ映司。俺の、記憶まで、勝手に、塗り変えるな」
 嗚咽に混じり吐き出されるアンクの言葉に、映司は優しく笑い続ける。
「だって、あの時のお前さ、ものすごく俺や比奈ちゃんのことを愛おしそうに切なげに見つめてたんだよ。あんな目で見られたら、これは絶対にアンクに寂しい思いをさせてはいけないって思うでしょ」
「そ、そんな目で、見て、ねぇ!」
「本当に、俺たちのことを大事に思ってくれてたんだな、って嬉しかったよ」
 バカ映司、とだけ呟いて押し黙ってしまったアンクの背中をぽんぽんと叩いてやりながら、映司はもう一度「お帰り」と言った。
「お帰り、アンク。そして、ありがとう。本当にお疲れさま」
「うるっさい…」
「俺、もうちょっと死ねそうにないからさ、また旅に出ようよ。今度はどこがいいかな」
「イタリア…」
「え?」
「アイスが、一番、美味かった」
「なるほどね。イタリアもいいな。この季節でもイタリアなら過ごしやすいだろうし」
「アイス、美味いとこが、いい」
「うん。分かったよ。美味しいアイスを探す旅にしようか、今度の旅は」

 こんなことが、あるのか。奇跡とでも呼べというのか。

「奇跡っていうのはね、起きるのを待っても起きないんだよ。不可能なことを起こしてこその奇跡なの。奇跡は起こすもんなんだよ、アンク」

 アンクの心の声に答えるように、映司はしたり顔で話す。


 もう、日がな一日、たった一人で映司の墓石の前で過ごす必要が無いということなのか。
 いや、この記憶すら、薄らいでいくようだったが。記憶が上書きされていくようだ。
 映司は、まだ側にいる。この先もずっと側に、一緒にいるというのだ。
 夢でも幻でもなく、現実として、今、ここにある幸せを、アンクは初めて噛みしめる思いを知った。


「旅の準備をしよう、アンク」

















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12.2.22

バタフライ効果というか映画「バタフライエフェクト」な現象を起こしてアンクさんにバッドエンドとハッピーエンドの両方を味合わせてあげたくて仕方がなくなりまして。書いてみた。

時空を越えて、また元の時間に戻るというのは、戻った時にはあちこちでバタフライ効果起きまくりだろという気もしますが、電凹自体がすでにバタフライエフェクトな現象を繰り返す話だったけども。

アンクの時間越えは、下手したら無限ループになるので一回切りで終わりにしてあげて欲しい現象だよね。