熱と衝動
「双子座は息災か?」
「あ?」
「聖域に居ろう、魂の片割れが」
「ああ、サガがどうしました?」
「息災かと聞いただけだ」
「聞いてどうするので?」
「興味がある」
「ああ?」
カノンは思わず凄んだ声を出してしまい、咄嗟に口を噤んだ。
会話の相手は海皇である。もちろん実体はなく、その魂はアテナの壷に封印されているという体裁を保っているが、結構好きに今生の依り代であるジュリアン・ソロの身体を使ったりもし、今現在は海底神殿に鎮座するポセイドンの鱗衣に意識を飛ばしてカノン相手に会話を楽しんでいた。
ちなみに、カノンはそのポセイドンに呼びつけられ、ポセイドンの鱗衣を前に一人で酒を飲んでいるのである。話相手をしろと仰せつかったものの、話すことも無し、間も持たないので一人で手酌しながら酒を飲み続けていた。
何が面白いのか、ポセイドンはそれだけで満足げな気配を漂わせている。
テティスに言わせれば「シードラゴン様はポセイドン様に愛されています」らしい。
冗談じゃない。愛したければ甲斐甲斐しく世話を焼いているソレントにしろと言い返したのも記憶に新しい。
しかし、テティスは「ソレント様はジュリアン様のお気に入りで、最大の親愛を寄せられる方ですから」と宣ってくれた。
依り代がソレントを気に入っているなら、ポセイドンもソレントを気に入っておけ、と言ったところで誰も聞いてはくれなかったが。
何が悲しくて、鱗衣に囲まれた部屋で床に座り込んで酒を飲まなければいけないのか。
そんなことを考えていれば、冒頭の「双子座は息災か?」の問いかけが来たのである。
「サガが、何か致しましたか?」
いきなり出てきた双子の兄の名に、カノンは心拍数が上がる思いである。何かしでかしただろうか。それとも何かする気なのか。
しかし、聞こえてくるのは面白がる気配すらある海皇の声。
「面白いほどに似ておるな」
「まあ、双子ですから」
何のつもりだ?
カノンはポセイドンの意図を読み取ろうと意識を集中させようとした。
「あれもまた美しいな」
「は?」
カノンにとっては予想の斜め上を行く言葉が聞こえたのだが。
「誰が、でございますか…」
あまり聞きたく無い部類の会話だと気付き、意識を遮断したくなる。
「神話の双子に匹敵する美しさよ」
だから、誰と誰がだ!?
胸の内だけで叫び、カノンは早急にこの部屋から出たくなった。
しかし、ポセイドンは勝手に話を進めている。
「一度、抱いてみたいものよ」
「!?」
だから、誰が誰をだ!?
「しかし、長いこと地上での肉体を持たなかった故、何とも不便よな」
「……」
「同じ容姿をしていながら、お前の生に対する貪欲さ自我の強さとは相反し、あれは生に対する執着が薄いな。アテナの為、弟の為、必要とされる理由無しには生きることをせぬ気質。実に面白い」
「……」
何を言い出すんだ? とカノンは警戒心を剥き出しにして海皇の鱗衣を睨んだ。
「相反するように見えて、その実、根は同じは双子というものか?」
「根は同じ?」
あいつと俺が?
カノンの疑問符にも答えることなく、ポセイドンは言葉を続ける。
「気高く誇り高い。故に、共に美しくあるのか」
「……」
「双子座は押さえ込まれた自我から発する美しさ、お前は剥き出しの自我に野生的なしなやかさから来る美しさよ」
もう立ち去ってもいいだろうか。
話がもの凄く馬鹿らしい方向に行きそうな気配に、カノンは傍らのウィスキーボトルを手に取った。これ以上、戯れ言を聞かされるのは危険だ。本能的にそう悟る。
立ち上がろうとしたその時、海皇の口から予想外と言うべきか予想通りというべきか、実にポセイドンらしい言葉が発せられた。
「どちらも味わってみたいものよ。しかし、ジュリアンの体を使っても仕方がない故な。それにソレントがやかましいのが目に見える」
何をほざいているんだ、この好色じじいめ。
カノンは一旦動きを止めた体を再び動かした。立ち上がり、部屋の外を目指す。
「今のところは、双子座に手を伸ばすのは止めておこう。お前の味見だけで我慢しようぞ」
「はあ!?」
思わず振り返り、素っ頓狂な声が出た。
立ち止まらずに光速で部屋の外へ出ればよかった、などと思っても遅い。
言うが早いか、カノンの精神に、いや、魂にと言うべきなのか、肉体ではなく内側に直接触れてくる感触が全身に襲う。
魂を嬲られるような感覚。ぞわっと総毛立ち、そのまま力が抜け落ちへたり込んだ。
神と交わり気が触れてしまう女の話を思い出し、こんな感じなのかと頭の片隅で暢気に考えてしまう。神の力の片鱗だけでこれだ。気が触れない方がおかしいだろう。
鱗衣からは楽しげに笑う気配がする。
くっそぅ。
なんか屈辱的な気分である。
魂に触れられただけでこれだ。それ以上など堪まったものじゃない。
「やはり美味よの」
何が美味だ!
「さて、少し疲れた。私はしばし眠る故、お前ももうよいぞ」
ふざけんなよ、この好色じじい!
そう内心で叫んでも声に出すことも叶わない。口を開けば妙な声が出そうで奥歯を噛みしめるので精一杯である。
「シードラゴン、何かありましたか? 小宇宙が乱れたように感じましたが」
扉の向こうで、ノックと共に声を掛けてくるのはクリシュナだろう。
なんでこう聡いかな、こいつは。
「何でもない。無事だ。…すまんが、二、三日空けるぞ。必ず戻る」
「は? 二、三日空けるって、どういうことですか!?」
扉を押し開き、飛び込んできたクリシュナに見つかる前に、カノンは時空を切り開きそこに身を投じた。
反射的に時空を切り開き移動した先は、別のポセイドンの海底神殿。
見覚えがあることから、ブルーグラードから繋がっている海底神殿だろうと思われた。
静寂に包まれた神殿の前の広間に、カノンは仰向けに横たわる。
体の熱が抜けない。
「くっそぉ、中途半端にすんじゃねぇよ。どうしてくれんだ、これ」
本当に「味見」だけしてくれたポセイドン。もういっそ、ジュリアンの体使ってでも最後までされた方がマシだと思える状態である。
冥界の翼竜のところへでも行こうかと思ったが、これほどに海皇の気配を纏った状態で冥界に入るのはかなり危険だと気付き却下した。
冥界も海界も、アテナと停戦、同盟を組んだのであって、冥界と海界はぶっちゃけ何の繋がりも無い。無いどころか仲は良くないだろう。
今のポセイドンは兄のハーデスも、天界に残ったオリンポス神たちも好いていないようである。
頑なにアテナの封印を理由に地上に留まり続けるのは、そのせいかと思われた。
「ああああああ! どうしてくれんだ、これ!」
自分で抜くにしても、普通の熱とは段違いなのだ。
「ここにいても危険だよな。絶対にクリシュナのやつ、探しにくるぞ」
海底神殿から海底神殿に移動するのはそれほどに難しくない。
まあ、実を言えば、聖戦後の復興作業の最中にカノンが勝手に時空を捻り繋いでいるからなのだが。
「冥界は無理。どうするよ俺?」
体に燻る熱を持て余し、カノンは悶えるしかない。
「あのじじい!」
海皇はカノンで遊んでいるだけだと分かるだけに、腹立たしいのだ。
そんなことを考えていれば、誰かが近付いてくる気配がする。まずい。
やはり、クリシュナが探しに来たか。
今の状態のカノンは小宇宙を押さえる余裕も無いのだ。小宇宙を辿れば簡単にここに辿り着けるだろう。
心配してもらえるのは有り難いが、今は勘弁願いたいところだった。
「くっそぉ」
もう完全にやけくそでカノンは再び時空を切り裂き身を投じた。
どさっと人が落ちる音に、サガは驚き振り返る。
双児宮の自室で仕事の書類を纏めていたのだが、いきなりその自室に何者かが降って湧いたのだ。
「お前、どこから出てきた」
呆れた声で床に横たわる双子の片割れに問いかける。
しかし、いつもなら「うるさい」だの「放っておけ」だの即座に返してくるはずのカノンからは、何も反応が無かった。
「カノン? どうした?」
らしくない静けさに、サガは困惑する。
傍らに屈み込み、そっとサガの指がカノンの頬に触れる。それだけでカノンは引き攣った声を上げた。
「カノン!? 一体どうしたのだ!?」
慌てた様子でカノンを抱き起こそうとするサガの腕を、カノンは掴む。そのままサガに抱きつくようにし、強引に口付ける。
サガの頭を抱き込むようにし、口付けを深くしながら体勢を変え体重を掛けていき床へと押し倒す。ごつっと音がした気がするが、おそらくサガが頭を床にぶつけたのだろう。
しつこいくらいに口付けていれば、横腹に膝蹴りを食らった。
「海の匂いがする。何をしてきたのだ、お前は?」
「何でもいい。俺を抱け」
蹴りを食らった横腹を抱えて呻きながらも、カノンは用件のみを口にした。
「何を言っている。この状況、普通は抱かせろとか言わないのか? 抱けなのか?」
「もう抱く作業が面倒くさい」
「何だその言い分は」
サガも大概にカノンの突拍子もない言動には動じなくなったのか、静かにピントのずれた発言をしてくれていた。
「いいから、抱けよ! ちくしょう!」
「おい。少し落ち着け。何があったのだ、カノン!?」
サガを組み敷いて再び口付けようとするカノンの顔を全力で押さえながら、サガは状況を聞き出そうとする。
「この気配は、海皇か? 海皇と何をした?」
熱の逃し方が見つからないまま、カノンはただ身悶えるしかない。そんなカノンの状況を理解できるはずもないサガは冷静に詰問するような態度を取り続ける。
カノンはそれに苛立つだけである。
「もういい。巨蟹宮に行く」
「何故そうなる!?」
「デスマスクに相手させる」
「待て! 待て待て! 落ち着け。とにかく落ち着け」
いきなり出た隣の宮の主の名に、サガは慌てた。どうして、そこでデスマスクなのだ。そう聞けば、隣だから。あいつ、こういうの慣れてそうだし、という返答だった。
「カノン。落ち着いてくれ、頼む」
「これが落ち着いていられるか」
「状況を説明しろ」
「説明するのももどかしいわ! 抱くのか抱かないのか、どっちだ!?」
もの凄い言いようである。
諦めたようにサガは息を吐いた。
カノンの背に腕を回し、宥めるように優しく撫でてやる。それだけでカノンの背がぶるりと震えた。
「カノン?」
「いいから、もっと」
少しの隙間もないくらいにサガに抱きつき、カノンは熱く甘い吐息を澪す。
サガはこれでカノンが落ち着くならと、再びゆっくりとその背を撫でてやった。
足りない足りないと訴えるカノンに、サガはベッドへ移動しろと言うがそれすらも面倒だというので、サガはカノンを抱え上げて寝室へと入る。
カノンをベッドへ移そうとすれば、カノンの足ががっちりとサガの腰に巻き付いており、サガはバランスを崩してカノンの上へと転がり落ちた。
「カノン! 足癖が悪いにも程があるだろ!」
サガのピントのずれた小言など無視して、カノンは口付けとその先の行為を強請る。
「あーもー、お前、ほんとうるさい。黙って抱けよ。いいから抱けよ!」
「抱いて欲しがってるくせに、随分と高飛車な態度だな」
「……兄さん、抱いて欲しいんだ。兄さんが欲しい」
「お前にはプライドはないのか?」
「そんなもん海の底に置いてきた」
高飛車だと指摘すれば、躊躇いなく下からおねだり口調に変える弟に、サガは呆れを通り越し感心してしまう。
そんなことを思っている今でさえ、カノンは己の熱をサガに押しつけてくるのだ。
切羽詰まったカノンの声と態度に、実をいえばサガはかなり理性がぎりぎりまで追い詰められていた。
己と同じ容姿。つまりは、美しく気高い姿。
ナルシストと言われようが、そそられない訳がない。
「カノン、どうなっても知らんぞ」
「いいから、さっさと抱け!」
色気から懸け離れたやり取りをしながら、サガは今度は自らカノンの唇へ自分のそれを押し当てていった。
サガは即座に双児宮に迷宮の結界を張った。来訪者には申し訳ないが、入り口を潜れば即出口になっているはずだ。通路以外は決して進入不可能にしてある。
誰も近付けない状態を作り出しておく。
お互いの衣服をはぎ取り、シーツに身を沈めるカノンの身体にサガはゆるく口付けを落としていく。そんな愛撫では足りないと文句を言うカノンを押さえ、サガはわざとゆっくりと進めていった。
もっともっとと身を捻って訴えるカノンの姿は、かなりの色気を醸し出してくれている。
それが楽しくて、サガはついゆるい刺激しか与えないでいた。
しかし、あまりそんなことをしていればカノンが切れるのも分かるので、そろそろかと腰を撫でていた手を下腹部へと下ろしていった。
いい加減にしろと言うように、カノンの足がサガの腰を締め付けてくるのは同時だった。
「こら、カノン。私が動けないだろ」
「さっさと動けよ」
サガは巻き付くカノンの足を引き剥がしながら、その内側を撫でてやる。それだけでカノンの背は昂ぶりを逃そうとしなり、足先は空を掻く。
体を引き剥がされたことで不満そうにしているカノンの熱を、サガはそっと握った。
カノンの目が一瞬大きく見開かれ、体が強ばる。
かまわずに、そのまま緩く扱いてやれば、掠れた喘ぎと共に簡単に吐精した。
しかし、それでもカノンの熱は収まることがないようで、堅さも保ったままである。
「これはまた、ずいぶんと重傷な…」
思わずサガは呟く。いってもいっても収まらないというのも、結構きつい。男だから分かるきつさだといえた。
「サガ! サガ!」
もういい加減に、本当におかしくなると、カノンが叫ぶ。
サガの中で完全に理性的な思考が千切れた気がした。
ローションを取り出し、指先で後孔の入り口周囲を撫で回す。
悲鳴に近い声を上げながら、カノンはサガにしがみついてくる。
全てが過剰な程に敏感になっているのだ。そうしたのは、海皇だろうと予測が付いていた。
いったい、海皇と何をしたのか何をされたのか、思うだけで頭が沸騰しそうなくらいにサガを苛立たせた。
後孔にゆっくりと指先を沈めていく。サガの首筋に顔を埋めるカノンの口元から、熱い吐息が澪れ出る。
入り口さえ解せば後は何とでもなると、サガは入り口を丹念に解し撫で回す。それがカノンにはもどかしく、懲りずにサガの腰に巻き付けた足でサガの腰を蹴った。
「本当に足癖の悪い…」
そう言うが早いか、サガは後孔に入れる指を一気に三本に増やし入り口を強引に広げる。
カノンの背が仰け反り、声にならない声を上げて身悶える。
そのまま、これで何度目になるか分からない吐精をした。サガとカノンの腹を汚す精を気にすることもなく、サガは指先でカノンの中を探り続けた。
いいところを当てるのは簡単だった。そこを執拗にいじり、強引に吐精させるも、やはりカノンの熱は収まらない。
「サガ…。兄さん…、もっと。足りない!」
抱き抱えていたカノンの体をシーツの上に横たえ、サガは覆い被さるようにし、口付けを落とす。そのまま、舌で歯列をなぞり唇を開かせるとカノンの舌を絡め取った。
カノンの足は相変わらずサガを蹴ってくる。早く入れろと催促しているのだ。
もう少し可愛く強請れないのかと思いつつも、女々しく強請られるカノンなど想像できんなと一笑に付した。
膝裏を抱え、両足を広げさせる。
十分に解しただろう後孔にサガは己の熱を押し当てた。
「入れるぞ」
「いいから、さっさと―――、」
声は途中から意味を成さない苦鳴と喘ぎに変わる。
「ふっ、くぅぅ。きつい。カノン、力を抜け」
「んな、余裕あるか。お前が何とかしろ!」
全く持って雰囲気など台無しな弟である。どこまで横柄なのか。
半分ほど入れたところで、緩く揺さぶってやる。文句を言いかけたカノンの背が仰け反り、喉をサガの目の前に晒す。
急所の一つといえる喉を躊躇いもなく。思わずサガはその喉元へ噛みついてやった。
「うがっ、いってぇぇぇ!」
非難の声が上がるが構わずに、喉から鎖骨へと噛みつく場所を変えていく。
滲み出る血を舐め取りながら、サガは己の中の昏い欲望が目覚めつつあるのを自覚した。
ポセイドンなどに、触らせたのか?
考えるだけで腸が煮えくり返る。
どれほどに突き上げ、揺さぶり、欲を吐き出させても、カノンは足りないと強請り続けた。
どれくらいにそうやって抱き合っていたのか。
鍛え抜かれた黄金聖闘士で体力は有り余るほどあるとはいえ、ぶっ続けは限界もある。しかし、カノンは疲れ果てても足りないと訴えた。
ここまで来ると逆に可哀想に思えてしまい、サガはカノンを優しく抱き寄せそのままシーツの上に横たわった。
手は背中を抱きしめ、撫でてやり。足はカノンの足に絡めていく。隙間なくがっしりと抱きすくめてやると、少しだけカノンが落ち着いたように吐息を澪した。
「カノン、少し話せるか?」
「…なんだ?」
気怠るげに問い返す声が聞こえ、サガは薄く笑んだ。ようやく、まともに言葉が交わせる状態になったらしい。
「何があった?」
「何も」
「何があって、私に抱かれに来たのだ? 何がお前をそこまで追い立てた?」
少しの逡巡と沈黙。根気強く待てば、小さく声が聞こえてくる。
「…ポセイドンの意識と話しをしていただけだ」
「それで?」
聞きながら、サガはカノンの背を優しく撫で続けた。気持ち良さげにカノンは目を細める。
「サガと俺は似ているが、性質が真逆だとか、そんなことを言っていた」
「そうか?」
「しかし、根は同じなんだと。気高く美しいとかほざいてやがった」
「そうか」
カノンが腰を動かし、サガの熱に己の熱を押し当ててくる。ただそれだけだが、それで今のカノンは満足なようで、ほぅっと息を吐いた。
「肉体を持たないから美しいものを抱けないとか言っていたんだが」
「うん」
「味見だけで我慢してやるとか、言いやがって、」
「……うん」
「いきなり、精神体が、こう直接、魂に触れてくる感じっつうのか。とにかく、魂を直に嬲られるような感触で…」
言いながらその感触を再び思い出したのか、カノンはぶるりと身を震わせた。恐怖ではなく、快楽故に。
サガはカノンの肉体が汚されたわけではないと安心していいのか、どう解釈していいのか困惑する。
「一瞬だった。ほんの一瞬で、これだ。…くそっ」
魂に直に触れてくるほどに、海皇はカノンを気に入っているのか。
サガは神を相手に昏い感情を持て余す己を自覚する。
まだ抜けきれない体の熱が再び燻り出しそうで、カノンはサガの背に腕を回しきつく抱き付いた。サガの体温と聞こえる鼓動が心地よかった。
「なぜ、私のところへ?」
意地悪な質問だろうか。サガは自分が微苦笑を浮かべていることに気付いた。
抱きついてくるカノンから、再び逡巡する気配が感じられた。
もそもそと動き、そして、小さくぼそぼそと呟く声が聞こえてくる。
「ここまで強烈に海皇の気配を纏わり付けて、冥界には行けない。別の無人の海底神殿に行ったが、どうしようもなかった。他に、…行く場所が浮かばなかった」
「そうか」
ただそれだけだったが、サガは口元が綻ぶの押さえることが出来そうになかった。
神の手で追い詰められ、その逃げ込む先として、消去法だとしてもサガを選んでくれていたことが、嬉しく感じてしまったのだ。
今のサガの顔をカノンが見れば、激怒しそうな予感しかしない。なのでサガはカノンの頭を押さえ込み、さらにきつく抱き締めてやった。
カノンの中で燻ぶる熱が落ち着くまで、このまま側にいてやろうと決める。
今日の予定を頭の中で弾き出すが、すでに昼は過ぎ、夕刻間近だろうことに思い当たり、急ぎの案件も無かったはずだからと、仕事についても放棄した。
後日、カノンと共にシオンに叱られるのもたまには悪くない。
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13.01.27
ポセイドンに中途半端に手を出されて、サガを襲いに行くカノンが書きたかっただけです。
エロってどこまで書いてどこで切ったらいいのかよく分からない。そして、相変わらず雰囲気の台無しな騒がしいエロしか書けない。
「水面に〜」や「黄泉より〜」のポセイドンはカノンを気に入ってる設定を引きずってます。