牛と蟹の話
「デスマスク、いいところに」
「あ?」
「これから報告ですか?」
「いや、自宮に戻って寝るだけ」
明け方近く、まだ東の空は仄暗い。
任務ではなく街に繰り出していたデスマスクは、眠たげに大欠伸をしながら十二宮の階段を上ろうとしていた。
それが、第二の宮でいきなり足止めを食らってしまったのである。まさか、こんな時間に呼び止めてくる人間がいるとは思わなかっただけに、かなり驚いた。神経が眠気で呆けているため澄まして見えるだけで、実はかなり驚いていた。
「やけに早いな、お前。早朝任務でもあんの?」
「いえ、先ほどまで天蠍宮でミロたちと飲んでいたのですが、皆潰れてしまいまして」
「お前は元気そうだな」
「ええ。飲み足りないくらいです」
「で?」
「え?」
「なんでわざわざ俺を呼び止めてんの?」
愛想も素っ気も無い物言いのデスマスクに、声を掛けてきた男――アルデバランははにかんだ様に笑みを浮かべながら、後頭部をぽりぽりと掻いている。
「一人で飲み直そうかと思っているところに、あなたの小宇宙を感じたもので」
「それで?」
誘われていると分かっているが、眠さも手伝って言い方も適当になってしまった。しかし、アルデバランは気にした風もなく、むしろ、会話を続けてくれるらしいと分かったことが嬉しいと言わんばかりに笑顔を見せた。
「いい酒を、カミュに貰ったのです。良ければ、少しだけ付き合ってくれませんか?」
なんでこいつは俺に懐くような真似をするんだか。
昔からそうだった。
蟹座には近付くな、そんな噂が流れていた頃から臆面もなく声をかけ、笑いかけ、話しかけ。
頭足りないのか? などと失礼なことを思ったりもしたが、そうでは無いことは彼の仕事ぶりからも分かっている。
「俺とじゃ酒も旨くねぇだろ」
なので、やはりわざとそんな言い方をしてしまう。
「俺とじゃ、やっぱり美味しくないですか。酒も、不味くなります、よね…やはり」
なんでそうなる!?
「いや、お前が俺と飲むのがだな、」
「デスマスクは舌も肥えているから、良い酒を飲むならあなたの感想など聞きながら飲んで見たかったんだが…やはり、俺とでは」
「いやいやいや、ちょっと待て。お前、素面に見えて相当酔ってね?」
「酔ってますよ。さっきまでミロたちと飲んでましたから」
「ああ、そうだね。そう言ってたね」
思わず子供に対するような口調になるデスマスクだ。
いきなり、アルデバランの巨体がデスマスクの両肩を掴んだ。
「酒があるんです! そして、俺は飲み足りないし、腹も減ったんです!」
「…………ああ、そう」
お前って、本当、昔から俺に怯えもせず遠慮無しに食い物を強請ってたよなぁ、と心の内で呟く。
「酒、上物なんだろうな」
「カミュの選んだものですから!」
「つまみ、何が食いたいって?」
掴まれた肩を離してくれそうにないので、デスマスクは面倒くさいのも手伝い、ぞんざいに頷いてやった。
素面に見えてすこぶる酔っているらしいアルデバランは、それはそれは満面の笑顔を見せ、そして、デスマスクにキスの嵐をお見舞いしてくれた。
叫び声を上げ、巨体に蹴りを打ち込むまでキスの雨は止まらなかった。
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13.01.27
タイトル適当すぎ酷いとか言わないで。思い付かなかったんだよ。
蟹受け絵チャにお邪魔して明け方近くにお題を頂いて書いたやつ。
私はあみだくじで「牛」を引きました。
牛が絡むと酒と食い物しか浮かばないのは何故だろう。