ごめん
「今日もあっついよなー」
「そやな…」
「マジであっちぃ」
「…ああ」
「……」
「……」
列車の中。当然、冷房は効いてる。外は暑いやろうが列車の中にいる今は涼しいはずやけど。
そう思う横で、岳人は「暑い暑い」を繰り返す。
暑い言ったところで、外の暑さが変わる訳もないやろうに。
苛々とそんな事を考えながら、俺は窓の外に目を向けた。
今日、俺らは負けた。テニスの試合で。関東大会の初戦で。俺らの試合が決定打になってもうた。
これで俺らの中学でのテニスは終わりや。引退を待つだけの身や。
気分も沈むんはしょうがないっちゅうもんや。なのに。
「なあ、昨日のドラマ見た? 九時からの」
「いや、見てへん」
「主人公の幼馴染みの子、すっげぇ可愛いよな」
「見てへんて、俺」
なんやねん、さっきからしょうもない事ばっか言いくさって。
「侑士、機嫌悪いのかよ」
「……別に」
「悪いじゃん」
この不機嫌は誰のせいやと思うとんねん。
「悪いよな、機嫌」
「……」
分かってんならなんべんも言うなや。腹立つ。
「……」
「……」
「……」
「……」
あー。苛々する。
何で俺がこないに苛付かなあかんねん。
「あの、さ」
「なんや?」
「うん…。今日、な…」
「……何?」
だから、なんやねんて。
はっきりせえや。
あー。苛々する。
何で俺、こいつとダブルス組んでんやろ。監督に言ってパートナー変えて貰うことも出来たのに。何でこいつとダブルスやってんねん、俺。
俺、こいつと組んで良いことあったか? とばっちりばっか食ろうてへんか?
それも今更か。もう俺らのテニスも終わりや。
あー。苛々する。
横目で岳人を見遣れば、俺のことを見ていたらしく目が合ってしもうた。そしたらヘラヘラと笑ってきた。
何でそないにヘラヘラしてんのや。
誰のせいで、今日の試合負けた思うとんのや。考え無しのお前のせいやろうが。
「なあ、侑士」
「なんやねん」
「今日の試合の事だけど…」
「何?」
「うん…」
「なんやねん?」
「…ごめんな」
「……」
「……」
あ?
なんやて?
え?
「何だよ、変な顔して」
「いや、なんやて?」
「だから、ごめんて。俺、スタミナ分配の事、考えずにやったから。侑士の足、引っ張った。だから、ごめんな」
「……」
えーと?
俺は、何で怒っとったんやったか。何で不機嫌になっとったんやったか。
「侑士。ごめんな」
列車が止まる。駅に着く。
「じゃあな、俺ここだから」
「ああ」
ああ、じゃないわ。何しとんねん、俺。
「岳人!」
「何?」
「また、明日な。学校で」
「おう。またなー!」
振り返った岳人は、真面目な表情からいつものヘラヘラとしたお調子者な表情に戻っとった。
何故か、酷く安堵してしまう。
自分のせいで負けたって分かっとったんかい。
いや、違う。そうやないやろ。
なんで、今までダブルス解消せえへんかったんか。分かりきってることや。
俺、岳人の遣りたい放題なプレイスタイルが好きやった。おもろい思うてた。俺が気に入って、岳人に好きにさせることを選んだ。
俺が後の事は全部フォローしたる言うて。
負けたんわ、俺の読みの甘さ。俺の詰めの甘さや。
全部、俺にまかせろて、それこそ俺は何様やいうねん。跡部じゃあるまいし。俺様気取りやったんかい、俺は。
岳人責めて不機嫌やったわけやない。自分の力不足に腹が立ってただけや。なのに、岳人に最後まで気ぃ遣わせた。
「俺、情けな…」
明日、岳人とバカ話しながらちゃんと話したろ。
08.2.3
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この「関東大会初戦敗退」ネタでSSを書くのは何個目だ(笑)
色々なキャラで何度でも書けそうなネタで助かります。氷帝の動かし方が分からなくなったらこのネタに戻れって感じで。
氷帝の魅力はやはりここ終結してると思う。
ガックンはああ見えてちゃんと場の空気が読める子だと思う。で、ああ見えてサバサバした潔い男前が良いなぁ、と。
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