言葉遊び

 

 

 

 

 

「お前はほんまに綺麗や」
「はっ。何を言う。お前の美貌の元では全てが霞むぜ」
「そんな謙遜せんといて。俺が惨めになる」
「謙遜なんかするか。俺は真実しか言わねぇ」
「美の女神に愛されたお前に俺が敵う訳あらへん」
「そんな苦しげに言うんじゃねぇよ。そそられるじゃねぇか」
「どうせなら、もっと苦しめてくれへん? お前になら俺はどうなってもええよ」
「本当にお前は可愛いぜ。お前のその声、もっと聞かせろよ」

 カリカリとペンが紙の上を走ると共に聞こえる忍足と跡部の囁くような会話。

 開け放たれた窓の向こうの街のざわめきが、微かに響いてくる。それ以外に雑音らしい雑音も無い世界。

「なあ、今度バックから攻めてもええか?」
「どうせなら、前からやれよ」
「お前を押さえ付けて思いっきり喘がせたいねん」
「悪趣味め」
「綺麗過ぎるお前が悪いんや」

 カリカリカリカリ……。

「俺はお前のイクときの顔が見たいんだ。だから、前で我慢しろ」
「嫌や。俺はお前を攻め抜きたいねん」
「お前のは凄すぎて俺が保たねぇよ。少しは優しくしろよ。それに、バックだけじゃキスも出来ねぇじゃねぇか」
「そんな悠長なこと考える暇も無いくらい、喘がせたるわ」
「どうかな。案外、喘ぎ過ぎて泣き入るのはお前の方かも知れねぇぜ?」
「それはそれで嬉しい状況かもしれへんな」

 カリカリカリカリ……。

 耳が痛くなるような静けさと、それを引き裂くように聞こえてくる会話の不気味さに耐えきれなくなった向日が雄叫びを上げた。

「だぁぁぁぁぁっ!!!! 気が散るぅぅぅぅ!!」

 ばんっと机を叩き立ち上がる。
 そのまま苛立ちと呆れの狭間で向日は体を震わせ続けた。言葉が続かないらしい。

「真面目な顔で不気味なセリフ言うのやめてくれ…」
 呆れを通り越して疲れ切った調子で言うのは宍戸だった。
「キモっ! キモ過ぎ、お前ら!!」
 集中力なんかとっくの昔に途切らせた向日は、教室中を駆け回る勢いで騒ぎ立てた。
「君たちは、ホントにくだらない遊びばかりを思い付くよねぇ」
 どう見ても面白がっているとしか思えない口調で言うのは滝である。その後ろの席に座る芥川は目の前のプリントなど端から手を付ける気も無い様子で爆睡中だった。

 夏休みのとある登校日。

 目まぐるしく行われる大会に追われて、三年生部員の半分が成績を落とすという失態を見せた男子テニス部は、この日の午後、三年生部員全員に補習を受けて帰ることを言い渡されていた。
 連帯責任という名目で成績を落とさなかった者まで補習を受けることになった理不尽な夏の日である。
 出された課題は数学。
 教室を三つほど貸し切ってのテニス部の補習。
 そして、この教室では、レギュラーと準レギュラーAクラスの者が集まっていた。

 当然ながら、補習を受ける原因の中に入るのが向日、宍戸、芥川を含めた他数名。ただの巻き添え、とばっちりであるのが跡部と忍足と滝の三人。

 数学に苦戦する向日や宍戸達の傍らで、跡部と忍足が何をしていたかと言えば、普通に課題をこなすだけじゃつまらねぇと、数学を解きながら連続で甘くエロいセリフを吐き続けるという遊びをしていたのである。
 先に気持ち悪くなって根を上げた方が負けというルールだったようだ。
 今回は、跡部と忍足ではなく、向日が根を上げてしまったのだが。

「なんやねん。岳人、邪魔せんといてぇな。この勝負に俺の今日の昼飯が掛かってんのや」
「お前らが邪魔すんな!! 気が散って何も考えられねぇだろ!!」
「集中力が足りねぇんだよ、お前は」
「うっせぇ! お前らの神経がおかしいんだよ! 何で、数学解きながらキモい事ベラベラしゃべってんだよ!」
「んなもん、簡単なことだろ」
「ぐあああああっ! ムカつく、すっげぇムカつく!」
「くだらねぇ事する暇あんなら、さっさと帰れよ」
「生憎と、俺はお前らの監視も頼まれてんだよ。お前らが終わらねぇ限り、俺も帰れねぇんだ」
「だったら、侑士だけでも帰れ!」
「酷いわ、ガックン。ガックンに合わせて、わざわざゆっくり問題を解いてんのに」
「余計に気が散る!! 余計にムカつく!」
「さっさと解きやがれ。この俺様が帰れねぇだろ」
「だったら、少し黙ってろよ!」
「さぁて、跡部。二回戦行こうか?」
「望むところだ」
「だから、お前ら帰れー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2006.5.30
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馬鹿な遊びが二人の間で大流行。
馬鹿っぽく見えて実際には頭が良くないと出来ない遊びだったりする。

集中力のいる作業をしながらベラベラしゃべるのって、けっこう難しい。


あまりエロいセリフ、甘いセリフが出てこなかった。
エロいセリフって難しいな。

 

 

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