信用
「宍戸。明日な、朝練休みやって」
「あ? なんで?」
「台風直撃やから」
「嘘つけ」
「ほんまやって」
「明日、台風が逸れて晴れたらどうすんだよ?」
「そんときは、朝練もあるんとちゃうんか?」
「だったら、決定事項じゃねぇだろ」
「せやから、現段階の決定事項を親切に教えてやっとるんやないかい」
「俺をだまそうたって、そうはいかねぇぞ」
「ほんまや言うとるやん」
「そう簡単にあの部活が休みになるかよ。台風でコートが使えないなら屋内で筋トレとかが普通だろうが」
「せやから、現時点では休みになっとるっちゅう話やねんて」
「だから、お前の嘘にはもうだまされねぇつってんだよ」
「嘘やないって」
「俺はだまされねぇぞ」
そう言い放ち、宍戸は鞄を手に部室からそそくさと出て行く。
他の部員たちはすでに帰路についてしまっており、閑散とした部室に忍足一人が取り残された。
窓から僅かに見える空には星が瞬いていた。この時刻で他に残っているものは、まだコートにいる跡部と樺地くらいだろう。
「ほんまなんやけどなぁ…」
頑なな宍戸の姿に、忍足は呆れたように溜め息を零した。そして、「ま、信じてくれへんでも俺は困らんけどな」と呟き帰り支度を始めた。
忍足の言うことは嘘ばかりである。もちろん、直情型の宍戸をからかって遊ぶ忍足の他愛もない冗談に過ぎないのだが、常にだまされ続けている宍戸にとっては信用ならない危険人物のように思われていた。
「ほんまやって言うとるのに」
「お前の言うことは信用ならねぇんだよ」
「ひどいわぁ。人でなしや」
「うるせぇ」
台風は直撃こそしなかったが、連日の豪雨のおかげでコートの使用が不可能な状態であり、その上、屋内の練習場は今回は陸上部に譲る約束になっているので、その日のテニス部の朝練は本当に休みとなっていた。
しかし、忍足を信用しなかったはずの宍戸が間違って朝練に出るということはなかった。忍足の言ったことが本当かどうか不安になり、夜中にこっそりと跡部に電話をして確認を取っていたおかげである。
それが昼休みにうっかり忍足に知られて「人でなし」呼ばわりされているところだったりする。
「人を信じられへんなんて、悲しい人生やで宍戸」
「うっせぇ!」
「人を信じられへんなんて、最低や」
「うるせぇんだよ!」
「お前はこういうときだけ俺を頼りやがるな」
呆れた調子で跡部にまで言われる始末だ。
「そりゃぁな。お前は無駄な嘘は吐かねぇから」
「当たり前だろ。お前をだましたところで俺様に何のメリットがあるっつうんだ。余計な雑務が増えるだけじゃねぇか」
心底馬鹿にした顔をしてくれる跡部。
「跡部は宍戸の信じ込みやすい性格の面白さを知らへんから、そないな事言えるんやで?」
「んなこと知ってどうするよ」
「人で遊ぶな! 忍足、てめぇはそのホラ吹きを止めやがれ!」
「安心せぇ。俺のホラは宍戸以外に使わんから」
「それがウゼェっつってんだ!」
どう見ても、いつもの騒がしいじゃれ合いである。余裕の無い宍戸と、余裕な態度でからかっている忍足といういつもの構図だ。
もちろん、宍戸に加勢する気など端から無い。
「まったく、飽きねぇ連中だな…」
これ以上は付き合ってられるかと言わんばかりの態度で跡部はその場からさっさと退散することにした。
2006.10.10
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この宍戸はどれだけ忍足にだまされているんだっていうね。
以前から、忍足は静かに真面目に嘘を吐いてくれるタイプのような気がしまして。(それってかなり質の悪い人だよ(笑)
ずっと忍足でこういう話を書いてみたかったんだけどね。頭の中にある構想としてはもうちょっとダラダラと書きたかったけど、こんな会話文ばっかりの話で終わってしまった。
そして、どうやっても未だに忍足をテンションの低い人に書けない。原作やアニメを見る限り、すっごいローテンションな人なんだが…。
久々にリハビリがてら書いたのは良いんですが、 跡部がクールを通り越してドライな性格になってきてるよ。
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