地元のイベで配布したコピー本の再録。

WW2終戦から数年後辺り。現在よりも幾分か若いアメリカって感じな為、子供っぽい。
出てきませんが、ナチュラルにプロイセンが東ドイツにいます。

 

 

 

 

 

The world is clouded

 

 

 

 

 

「許さないんだぞ」
「どうして、僕が君に許してもらわないといけないのかな?」
「勝手な行動を取っているじゃないか」
「それぞれが分割して統治する、そう決めたのは君たちじゃなかった?」
「だが、君がやってることは違うじゃないか!」
「どう違うの? 分割統治を僕の遣りやすいやり方でさせてもらうって言っただけだよ。どうして、やり方まで君たちと合わせなきゃいけないのかな?」
「君のは独断すぎる!」
「独断? それは君にこそぴったりな言葉だと思うんだけどなぁ」
「…ロシア、君のやり方は許さない」
「アメリカ君に許してもらう必要性が、僕には分からないんだけどな?」
 細かい雨がガラスを濡らし続ける。ガラス越しに見えるのは滑走路。
 その遙か先、雨に煙る街並の向こうに霞んで見えるのは、長い長い歪な壁の姿。一つの街を囲んでしまった壁。
 空港のロビーにアメリカとロシアは睨み合うようにして立っていた。そこには一般人の姿はなく、他に居合わせるのは、イギリスとフランス。そして、ドイツとイタリア。
 イタリアはおろおろと、先ほどから掴み合いの喧嘩に発展するのではないかという雰囲気のアメリカとロシアを見つめていた。その震える手はしっかりとドイツの袖を掴んでいる。隣に立つドイツは、問題の、話題の当事者であるはずにも関わらず冷めきった表情で現状を眺め遣っていた。

「だいたいさ、僕の上司がベルリン封鎖に踏み切った時、ドイツ君は怒って抗議してきたけど、君たち、アメリカ君を始めとするそこの君たちは黙認って態度を取ったんじゃなかったかな? 僕のやることを承認するって意味だと僕は思ったのに。おかしいなぁ?」
「承認、なんか、してない!」
「でも、抗議したのは、ドイツ君だけだったよ? そのドイツ君を君たちは、君たちの上司は、かな? 見捨てたんじゃないの?」
「ヒーローは、見捨てたりなんか、しないんだぞ…」
「言動が一致してないよ、アメリカ君。ヒーローってものは随分とご都合主義らしいね。素敵だよ」
「ロシア!!!」
「止めろ、アメリカ!」
 どこまでも、明らかにわざとアメリカを怒らせようとしているロシアの態度にアメリカは簡単に乗せられる。掴みかかり、殴るのではという動きを見せたアメリカを寸前で止めたのはイギリスだった。
「離せよ、イギリス」
「今は抑えろ、アメリカ。今は何があっても動くな。そういう時じゃない」
「離せよ!」
「いい加減にしろ!」
「俺に指図するな!」
「てめぇ…!」
「あはははは。まるで駄々っ子だよ、アメリカ君。一度、君の立ち位置ってものを再確認してみることをお勧めするよ」
「ロシアァァァァ!」
「アメリカ、今は抑えろ!」
 ロシアは、ロビーに立ち尽くすだけのアメリカ、イギリス、フランスを軽蔑の眼差しで見つめ、それから、びくびくとドイツの陰に隠れたままのイタリアを生暖かい視線で眺め遣る。
 そして、最後に、ドイツへは少し申し訳無さそうな自嘲じみた苦笑を浮かべて視線を合わせてきた。ドイツはただ真っ直ぐにその視線を受け止めていた。
「ド、ドイツぅ…」
 イタリアが不安そうな声でドイツを呼び、その腕を引っ張る。ドイツは「お前が心配することじゃない」とイタリアの髪を一撫でした。
 そんな二人を眺めていたロシアが、ぽつりと言う。
「本当に、君たちは戦いが終わっても仲が良いよね。日本君とも連絡取ってるんでしょ? それに比べて、僕らはすごいよね」
 そう言い、アメリカ、イギリス、フランスを見遣った。
「共通の敵ってやつがいなくなった途端、バラバラだぁ。みんなして仲悪いし。本当、寂しいなぁ」
 その言葉に、アメリカがイギリスの腕を振り切った。
「そうさせているのは、君だろう!」
「君でしょ」
 アメリカがロシアの胸ぐらを掴み上げる。そのまま殴るか、押し倒すか、という体制に入る前に、イギリスがアメリカを羽交い締めにしてロシアから引き離した。
「いい加減にしろ、アメリカ! 立場をわきまえろ!」
 さすがに、フランスもやばいと思ったのか、ロシアの制止に回る。
「そろそろいじめるのも勘弁してもらえない? 今は、俺たちも戦いは避けたいってのはお前だって分かっているだろ。なんでそう、わざわざけしかける真似するかな?」
「ごめんね、フランス君。僕、今はとぉってもアメリカ君が嫌いだからさ。ヨーロッパのことに部外者が口挟み過ぎなとことかね」
「だから、今はそういうこと言わないの!」
 フランスの制止も虚しく、アメリカは怒り心頭な様子だった。アメリカよりも一回りは小柄なイギリスでは、アメリカを羽交い締めにして押さえ込むのも限界そうだ。
 それを見越してだろう、ロシアが別れの挨拶をする。
「それじゃぁね、僕もこれでも忙しいから」
 無邪気な笑顔。無邪気であるが故の残酷さ。
 ロビーから出ていく寸前に、ふと立ち止まり、ロシアはドイツを見つめた。
「プロイセン君は元気だよ。食いもん寄越せ、景気どうにかしろって怒りまくってるよ」
 ドイツは頷きもせず、ただ静かにロシアを見つめ返していた。



 ロシアが去った後も、しばらく誰も動こうとはしなかった。
 フランスが居たたまれない様子でイギリスに視線を向けるが、綺麗に無視された。
 雨に濡れるガラス越しに遠くの壁を眺め続けるのにも飽きたというように、ドイツがロビーに設置されている椅子の一つにどかっと腰を下ろす。イタリアがビクっと飛び上がり、それから慌ててドイツの隣の椅子に座った。
「ドイツ。俺らは明日まで西ベルリンにいるが、お前はどうする? 帰るなら俺んとこの飛行機を手配させるぞ」
 イギリスがそう声を掛けてくるが、ドイツは無反応のままだった。
 現在の西ベルリンへの移動手段は航空機のみで、しかも、使える航空機はイギリス、アメリカ、フランスの物のみとされている。ドイツはまだ自国の航空機をベルリンへ乗り入れることを許されていない。それが、敗戦の代償の一つ。
 今日ここへは、イタリアと共にアメリカ機に乗せてもらって来ていた。
 イタリアがおろおろとドイツの腕を引っ張る。イギリスが何か言っているよ、と必死に小声で訴えていた。
 それでもイギリスにはしっかりと聞こえており、「何かじゃねぇ」と思わず呟く。イタリアがびくっと体を振るわせた。イギリス恐怖症はまだまだ治りそうになかった。
 ドイツは振り返りもせず、視線はガラスの向こうに向けられたまま、返答をする。
「気遣いは結構だ。俺もしばらくこちらに滞在する。東ドイツと細かい話し合いがまだ済んでないんでな」
「あ、えっと。俺もドイツと一緒であります!」
 一人でアメリカかイギリスの航空機に乗せられては堪らないと思ったのか、イタリアが慌てて言っていた。
「イタリア、帰りたくなったらお兄さんに言いな。乗せてやるから」
 イタリアの怯えっぷりに苦笑いをしながら、フランスがそう言ってやる。こくこくと頷くだけでイタリアはドイツの腕にしがみ付いたままだ。そんなイタリアをドイツは気にした風もない。
 フランスは、ロシアの「仲が良いよね」発言を思いだし、苦笑を浮かべるしかなかった。
「話し合いにもならなかったね」
 アメリカがそう呟き、ドイツの方を振り返った。ドイツはアメリカに背を向ける形で座ったままだった。
「悪かったな、わざわざ足運ばせちまって」
「イギリスが謝ることじゃないよ」
 そんなやり取りすら、どこか刺々しいアメリカの言葉。フランスはやれやれと肩を竦める。
「ドイツ」
 そうアメリカが声を掛ける。しかし、ドイツは無反応のまま。
「俺は、ロシアを許さないんだぞ。必ず、こんな馬鹿げたことは終わらせてやるんだ」
 そのアメリカの言葉に、ドイツが立ち上がることなく振り向いた。椅子に座ったまま、椅子の背もたれに腕を乗せて半身だけ振り向くような、見ようによっては横着な体勢。
「気にするな」
 と、ドイツの低い声が響く。
「元々、お前に期待などしていない」
 どこまでも感情の籠もらない冷めた声。隣に座るイタリアでさえ、驚いた顔でドイツを見た程だった。
 フランスが「あちゃぁ」という顔をし、片手でその顔を覆ってしまった。
 アメリカの最後のプライドを壊すには十分すぎる言葉だった。
「どういう、意味だい?」
「言葉通りだが?」
 表情の消えたアメリカの顔。それに対するドイツの冷めきった声。
「ドイツ! そもそも、君が先の大戦で…!」
「止めないか、アメリカ!」
 制止の声を荒げて、イギリスがアメリカを後方へと引きずって行く。
「離せよ! 離せ、イギリス!」
「少し、頭を冷やせよ、馬鹿!」
「君に、指図される覚えはないんだぞ」
「何?」
「もう国力でさえ、俺に敵わないような君に、指図される覚えは無いって言っているんだよ! 大英帝国なんて過去の栄光に縋るのも大概にしたらどうだい!?」
「……!」
 イギリスだけでなく、その場の空気までもが凍り付くのが分かった。一瞬にして、アメリカは青ざめる。言い過ぎた、と顔を引き攣らせる。
 一呼吸置いて、イギリスは幼い子供にするように、拳骨でアメリカの頭をごつんと一発殴っていた。
「大人になったってなら、もう少しまともな発言をしたらどうだ?」
「…………」
 アメリカにはいつまで経っても甘いだけのイギリスの声が、ひどく冷ややかに響いていた。ただし、やはり行為は甘い。
 頭に軽く拳骨って…。フランスが頭を抱えそうな勢いで溜め息を吐いていた。
 叩かれた頭を痛そうに抑えながら、アメリカは目一杯に涙を浮かべてイギリスを睨む。
「アメリカ…」
 叱り方を間違えた、今更に子供にするような叱り方をしてしまった、とようやく冷静さを取り戻したイギリスは慌てる。
「誰も、俺に勝てない癖に! なんで…! イギリスなんか嫌いだよー!」
 そう叫ぶとアメリカは空港のロビーから走り去ってしまう。
「アメリカ!」
 イギリスの制止など聞くはずもなく、あっと言う間にアメリカの姿は見えなくなってしまった。
「あーあ。ホントにいつまで経っても可愛い坊やだね」
 呆れたようにフランスが呟いたが、それにさえ、イギリスは反応しなかった。
 嫌いだと言われたことが、ショックだったらしい。嫌いなどといつも言われているのに、この時ばかりはその言葉が酷く堪えた。
「なんで…」
 とイギリスが呟く。
「なんで、いつもこうなんだよ…」
 愛しさを込めて、求めて、手を差し伸べようとするのに、皆、この手をすり抜けていくようだった。
 愛しいと思うことも、許されないのか。
 同じなのに、同じようなものなのに、なぜこれほどまでに違うのだろうか。
 東西に分断されて尚、その手を離そうとはしないドイツ。アメリカとロシアの新たな喧嘩のおかげで、兄のプロイセンと敵国という立場になりかけている現在でさえ、兄弟であることを止めようとはしない。必ず、東を取り戻すと、そう言い続ける。
 同じ、国の子供を見つけ育て、兄弟という関係になっていながら、どうして、彼らと自分たちはここまで違うのだろうか。
 何が、違ったのか。
 国になるだろう子供を守り、育てて…。
 国になる、子供…?
 イギリスは、今更のように思い、ドイツを凝視した。
 このドイツという青年は、いつの時代からこの国の具現化という姿で存在していたのだろうか。
 アメリカよりも年上になるのか、年下になるのか。未だ、イギリスは知らない。プロイセンがフランスと大喧嘩をして勝って、そのままドイツ諸国の統一という宣言を行った時に、いきなり歴史の表舞台に姿を現したこの青年。
 統一の時まで、プロイセンが隠し続けていた存在。
 神聖ローマの流れなのか、別の存在なのか。
 神聖ローマと同じく、ドイツ諸国を纏める器として存在としているのは確かだろうが、神聖ローマとの関係性は不明なままだ。
 プロイセンは今も尚、何も語ろうとしない。もしかしたら、オーストリアは知っているのかもしれないとは思う。何せ、ドイツ統一の覇権を巡って争い続けていた二人だ。
 それでも、やはり、オーストリアもプロイセン同様に何も語りはしないのだろう。
 イギリスにはそれが、ドイツを守る為、神聖ローマと同じ轍を踏ませない為だと言っているように感じ得た。
 あの激動の時代。ドイツ統一を成し遂げたのは、結局、成り上がりと言われたプロイセンだった。オーストリアとの違いは、己の存在をも賭けた覚悟…だったのか。
 覚悟…。
 俺だって、覚悟を持ってアメリカを守ってきた、はずだった。なのに、なぜ、アメリカの選ぶ選択肢は独立だったのだろう。
 あれほどに愛したのに、何が足りなかったというのか。
 なぜ、どうして、と、もう何度思ったか分からない言葉を繰り返す。
 結局、ここに行き着く己の思考回路に笑うしかない。
「お前らと、何が違ってた…?」
「ん?」
 自分に問いかけているらしいと気づいたのだろう、ドイツが小さく反応を返してきた。
「お前とプロイセンは、何で今でも兄弟だと言い続けられる…」
 ドイツは椅子の背もたれに肘を乗せ、中途半端に後ろを振り返る体勢を再び取った。
 しばらくイギリスの顔を真っ直ぐに見つめていたが、不意にその視線を外す。
「いつまでもお互いに依存し続け、依存無しではその存在も維持していけない俺や兄貴と、独立という形を取ったとはいえ、今現在は肩を並べて日の下を歩けるお前らと、どっちが羨ましいかという話か?」
 口調は穏やかなのに、どこか冷たさの漂うドイツの声音。
 イギリスは返す言葉に窮する。
「余計なお世話かもしれんが、さっきのは叱り方は別に間違ってないと思うぞ。俺はよく兄貴から蹴り飛ばされていたからな」
「………」
「余計ついでだが」
「…な、なんだ?」
「こういう場合、追いかけてやった方が良いんじゃないのか?」
「…!」
 確かに!というように、我に返ったイギリスは別れの挨拶もすっ飛ばしてロビーから駆け出して行った。


「ド、ドイツ…」
 相変わらずおろおろとした様子でイタリアがドイツの袖を引っ張る。
「なんだ?」
「俺は、依存ってものが分からないけどさ、ドイツがドイツで、プロイセンがプロイセンでいてくれてることが、嬉しいよ?」
 よく分からない言葉だったろうに、ドイツは穏やかに聞いていた。
「そうか…」
 そう返答するドイツの口元に微笑が浮かぶ。
 そんな空気をわざとぶち壊すようにフランスが大げさなジェスチャーで割って入って来た。
「お兄さんもいること忘れないでね〜」
 寂しいじゃない、と後ろからイタリアに抱きつき、ドイツに向かって意地悪く笑って見せる。
 ドイツが「離れろ貴様」と立ち上がって怒鳴れば、フランスはにやにやと笑い出した。
「何だよ、二人とも。アメリカとイギリスがいなくなった途端、いつもの調子に戻っちゃって」
「ヴェー。だって、俺、まだ怖いんだもん」
 イギリスが、とイタリアはぼそぼそと呟く。ドイツは、気まずそうにぼりぼりと首の後ろを掻きながら、
「まあ、なんだ、いろいろ手間を掛けさせた手前な、対応もいちいち考えるのが面倒になっていた」
「お兄さんにはそれが必要ないってこと? ドイツ?」
「お前とは喧嘩して勝っただけで、面倒掛けた覚えはないからな」
「ちょっとぉぉぉぉ! そういうこと言うと賠償金増やすよ!?」
「上司を通してくれ」
「ドイツー! これからは、俺、もうお前んとこに攻め込まれるの面倒だから一緒に仲良くやっていこうって思ってるのにさ、その態度は酷いんじゃないの!?」
「一緒に、か…」
「そうそう、一緒にヨーロッパを纏めよう?」
「うむ。そうだな。…日本的に、善処しよう」
「ドイツーーー!?」








 霧雨が降る、薄ぼんやりと霞んだ街をイギリスは駆けていた。
「アメリカの馬鹿、どこまで行ったんだ」
 ホテルにも戻っていない。空港を確認しても帰った記録は残っていない。まだ、この街にいるということだろう。
 傘を差しても意味をなさない霧雨。傘があろうとなかろうと、じわじわと湿気が髪を衣服を濡らしていく。
 大陸の内部でも、こんな雨が降ることがあるんだな、と思う。
 歩き慣れない異国の街の雨は、ロンドンの雨よりも冷たく感じた。
 少しずつ復興が進んでいるとはいえ、一度は焼き払われた街。道を遮り、鉄道を寸断し、壁を建てられ分断された街。
 旅行者がベルリンを訪れ「哀しい街ですね」と呟いていた話を思い出す。
 ドイツは、どういう思いであの壁を見上げていたのか。
 ふと思う。
 絶望か、怒りか、自責の念か。
 それでも、どんなに時間をかけようとも東を取り戻すと言って聞かなかった。周りに何を言われても、東は切り離されたドイツであって、外国ではないという姿勢を貫こうとしている。
 依存してなければ存在すらも維持出来ないと言ったドイツ。手を振り解かれ、戦い、独立されて、でも、今は同じ視線で肩を並べて歩いているアメリカ。
 どちらが幸せ?
 違う。そんな次元の話ではない。
 イギリスは頭を振る。思考がおかしな方向へと進んでいくようだ。
 先ほどのドイツの言葉が頭から離れない。依存。共依存。それによって成り立っているというドイツとプロイセン。
 歪んでいるのは、どちらだと思う? そう問われていた気がした。
 イギリスの脳裏に、酷く哀しいドイツとプロイセンの姿が見えた。哀しく幸福という不可思議な。
 一瞬、ぞくりと背筋が凍り付く思いがした。
 間違い、正解、幸福、不幸、それはその者が決めていくことだ。
 それぞれがそれぞれの道を選び、求めて存在しているだけだ。
 違う者同士を比べること自体がおかしいのだと、無理矢理に結論付ける。
 比べようなどと思ったこと自体が無理な話だったのだと、イギリスは一度、ドイツ達から思考を遮断する。

 雨は、降り続く。
 霧雨が小粒の雨に変わってきた。その内に、本降りになるだろう。
 立ち止まり、イギリスは歩道脇の街灯に凭れた。疲れたように己の手をぼんやりと見詰めてみる。
 同じ独立でも、イギリス連邦に収まったまま独立を果たしたカナダ。しかし、アメリカは、完全なる独立を求めた。イギリスの元にいること自体を拒んだのだ。少なくとも、そうイギリスは思っていた。
 アメリカは、どうしてイギリスの元からの独立を望んだのだろう。繋いでいた手を振り払ってまで。
 空を振り仰ぐ。重い灰色の雲が覆う空。ロンドンの鈍色の空を思い起こさせてくれる。
「過去の栄光ばかりに、縋るな…か」
 雨が、顔を濡らす。
 本気で痛いところを突かれたものだと思った。乾いた笑いしか出てこない。
 もう、完全に、大国という地位はアメリカへと移っていた。力の差をまざまざと見せつけられた先の大戦。
 ショックが大きすぎて、逆に酷く冷静になってしまっていた自分があまりに滑稽だった。
 アメリカを子供扱いすることで、必死に自分を守ろうとしていた結果が、あの拳骨か。本当に笑える。
 それでも、ドイツは間違えではないと言っていたな、と思い出す。
 兄弟であり続けたかった自分と、兄弟であることを拒絶したアメリカ。
 あれは兄が弟を叱る態度だったな、と思う。そういう意味ではドイツの言うとおりで間違えでは無かったのだろう。しかし、アメリカが求めるのは、違うものだった。
 何を求めているかなど、イギリスに分かるはずもないが。
「分っかんねぇよ…。俺に分かるかよ、馬鹿…」
 ただ、愛したかった。それだけのはずだったのに。慈しみ、愛し、守り。だた、それだけでそれが出来るだけで、幸せだと思っていた、はずなのに。
 かつての自分が欲しくて堪らなかった愛情を、存分に注ぎたかった。愛したかった。愛されたかった。
「…って、なんだよ。自分のことばっかじゃねぇか…」
 呟き、自嘲気味な笑いが零れ落ちる。
 愛したかった、だけなのに。それが間違えだというのだろうか。何を間違えたのだろうか。
 アメリカは、何を望んでいたのか。自分は、アメリカに何を求めていたのか。アメリカは何を求めているのか。
 もう、何が何なのか分からなくなる。いつも、こうだ。堂々巡りで終わる。
 いったい、いつまでこんなことを繰り返す。何度、繰り返せば気が済む。
 いつまで、振り回されれば良い。
 どうすれば、こんな感情を持て余さずに済む。
「もう、めんどくせぇ…」
 誰でもいい、教えてくれないだろうか。
「アメリカ…」
 雨が、顔を濡らす。頬を伝う。
 雨の冷たさが体力を削いでいく。体が冷えて、手がかじかむ。視界が、滲む。
「何か…疲れた…」
 もうこれ以上、何も考えたくない。思考を手放してしまいたい。
 いっそのこと、意識をも手放せたら少しは楽になれるのだろうか。
 おとぎ話のように、眠ったまま目覚めなくて済むなんて都合の良い話は、起きないだろうな。
 声にならない笑いを浮かべ、イギリスは凭れた街灯からずるずると地べたに座り込んだ。
 俯けた視線の先に、鈍色の空を映した小さな水溜まりが見えた。顔を上げずとも、暗い空の色が見えた。
 光りを通さない暗く厚い雲が、いつまでも自分を覆っているように、思えた。









「………」
 どういうつもりか、イギリスが西ベルリンの目抜き通りの歩道の街灯にもたれ掛かって、…これは、寝ている?
「何をしているんだ、この人は…」
 激情に任せて空港を飛び出したものの、帰るにはあの空港を使わない限り帰れないということを思い出したアメリカは、来た道を戻って来ているところだった。
 そこで出くわした奇妙な光景。
 見て見ぬ振りをして立ち去ろうか、とも考える。
 そんなことをしたら、ドイツの迷惑になるだけか。
 別に、ドイツを気遣う必要も無いのだが。
 雨に濡れながら、うずくまるイギリスを見下ろしてアメリカはそんなことを考え続けた。
「………」
 さて、本当にどうしようか。
 見捨てるのは、やはりヒーローのする事じゃない、と思う。うん。そうだろう。誰だって、そう思うはずだ。
「ああ、もう! 本当に手の掛かる人だなぁ!」
 腹立ち紛れに大声を張り上げた。それでもイギリスは起きる様子が無い。
「ヒーローは見捨てたりしないんだぞ!」
 そう言いながら、イギリスを抱えあげる。
「――――、」
 抱えあげて、簡単に抱えあげられて、アメリカは言葉を失う。
 この人は、こんなに軽かっただろうか。こんなに、細かっただろうか。
 空港でイギリスにぶつけた言葉。誇張でも何でもなく、事実だったのだと、当たり前のことにアメリカ自身が愕然となる。
 イギリスは、すでに大国としての力を失いつつあり、逆にアメリカがその地位に立とうとしているのだ。
 どうして、あれほどに強くなりたいと大きくなりたいと思っていたのか、もう思い出せない。
「なんで、君を追い抜きたいと思ってたのかなぁ」
 分からない。思い出せない。
 腕の中のイギリスが、寒さに身震いした。
 うっすらと目を開けたように思えた。
 アメリカはぎょっとしたが、イギリスは意識が朦朧としたままのようで、ただ、アメリカを確認するとへにゃりと笑って見せた。
「アメリカの…馬鹿ァ…」
 そう言って、再びイギリスは目を瞑った。その体からぐたりと力が抜け落ちる。
「どれだけ失礼な人なんだい?」
 アメリカはわなわなと身を震わせた。今度こそ、ちょっとだけ本気で捨てていこうかとも思ったが、なけなしの自制心でもってイギリスを手放すのは止めておいた。
 元々、今回の話し合いが長引くつもりでいたので、こちらにホテルを取ってある。面倒だからとイギリスに一緒のホテルで良いから俺の部屋も取っておいて言っていたおかげで、ホテルまで一緒だ。
 しかも、荷物も面倒だという理由で先にホテルに送っていたことを思い出した。
 帰るにも、一度ホテルに寄らないといけなかったわけだ。
 どこだったかなぁと思いだしながら、アメリカはイギリスを抱えたまま歩く。
 ロシアによる封鎖を受けた直後なのと、この天気のおかげで、ベルリン市内には人通りが少ない。ほとんどいないと言って良いほどだった。
 ホテルの場所を聞こうにも、聞く人がいないのだ。
 困ったな、と思いつつアメリカは歩く。が、ホテルはあっさりと見つかった。
 復興が始まったばかりだったせいもあって、大きなホテルの数自体がまだ少ないのだ。
 目抜き通りに建てられたホテルをイギリスが取っていたおかげでもある。とりあえず、大きな一本道を歩けば辿り着く、という感じだった。
「焦って損したよ…」
 ぶつぶつと言いながら、アメリカはホテルの正面玄関を潜った。
 ずぶ濡れの男二人の姿に、ホテルマンが血相変えて飛んでくる。何事かあったと思ったらしい。
 そのホテルマンに「雨に降られただけだよ」と伝え、ついでに予約していたジョーンズとカークランドの部屋をフロントに聞いてくるように頼んだ。
 人間の中で行動する際に使っている便宜上の二人の名前だった。
 その名を聞いて、ホテルマンが再び血相を変えてフロントへと走っていく。どうやら、ドイツが前もってVIP扱いするように伝言していた風である。
「本当にマメなやつだね…」
 この場にいないドイツに向かってそう呟いた。



 もう、色々考えるのも面倒だったので、アメリカはイギリスを自分の部屋へと連れていった。イギリスはまだ眠ったままだ。雨に濡れて体が冷えきっているのは二人とも同じだが、そろそろ目を覚ましてくれないだろうかと思う。
 熱いシャワーでも浴びさせたいところだが、本人が眠ったままでは危ない気もする。
 こういう場合、どうするのが常識的なのか、アメリカは知らない。というか、普通、こういう場面に遭遇することも無いだろう。
 とりあえず、イギリスから濡れた衣服全てを脱がせて、ベッドへと放り込んだ。それでも起きる様子が無かった。
「俺にどうしろって言うんだい?」
 いつも、対応に困る場面に遭遇すれば、必ずイギリスがああしろだこうしろだと余計なお世話な勢いで指示してきていたのに。そのお節介焼きが今はこの様だ。
「とりあえず、着替え、だよね」
 一旦、イギリスの部屋へと行き、イギリスの荷物を取ってくることにした。
 イギリスの荷物は小さな鞄が一つだけ。数着の着替えが入っているのみらしい。
 その荷物を持って来たはいいが、先に新しい服を着せた方がいいのか、シャワーなり何かで温めてから着せた方がいいのか。
 はぁ…と盛大に溜め息を吐いた。
「もう、そのまま寝てなよ…」
 そう言い捨てて、ベッド脇に腰を下ろす。
 アメリカ自身も着替えをすませていたが、長時間に渡り雨に奪われた体温はそう易々と戻って来てくれそうになかった。
 ぶるっと身震いがし、背筋を悪寒が走る。
 これは、確実に風邪を引くと、鳥肌の立つ自分の腕をアメリカは思わずさすった。
 自分だけでも熱いシャワーを浴びた方が良さそうだ。
 大急ぎで着替えたばかりの服を脱ぎ捨て、バスルームへと飛び込んだ。
 頭からシャワーを浴びる。シャワーの熱さでようやく体の芯が暖まってきた感じだった。
 しばらく、そのままシャワーを浴び続けた。
 それでも、イギリスをどうしようか、頭にあるのはそれだけである。
「ああ、もう! 本当に面倒な人なんだよ!」
 昔から、好きだと言っても嫌いだと言っても泣きそうな顔をするイギリス。
 頑なな彼には何も言っても、何も届きはしないのだと、そう結論付けたこともあった。
 どうすればいいというのか。
 何を言っても、君は聞きやしないじゃないか、そう叫びたくなる。

 きゅっとシャワーを止め、ホテルが用意してくれていたバスローブに身を包む。こういうのもドイツの指示によるものだろうか、と思った。
 先ほど脱ぎ捨てた服もちゃんと回収して、後で着れるように大雑把にだが整える。
 イギリスが逐一注意をしてくれるおかげで、すっかり条件反射のように身についてしまっていた。そんな自分に顔を顰めたくなる。
「イギリス…」
 ベッドで眠るその顔に触れる。ぞっとする程に冷たい。冷えきっているにも程がある。
「イギリス!?」
 両手で顔を包み込んだ。冷たいが、呼吸は正常だ。
「ちょっと! 起きなよ! せめてシャワー浴びて…!」
 深く眠ったままのイギリスは身動き一つしない。
 日本のところみたいに、湯船というやつがあれば便利だったのに。このホテルにはシャワーが付いているだけだ。復興から間もないこの街では当たり前かもしれないが。
「どうしよう…」
 とりあえず、冷えきったイギリスの頬を撫で続けていた。
 額に額を付ける。冷たい。熱は無い、のだろう。そのまま、頬をくっつけイギリスの湿ったままの髪に鼻先を埋める。
「なんで、起きないんだよ?」
 頬に唇を当てる。当然のように、反応は無い。アメリカは眉根を寄せたまま、額へと口付けを落とす。そのまま下へと移動させる。どこもかしこも冷たい。
 唇には触れずに、首筋へと口付けを移す。
「何で、起きないんだい? ねぇ、イギリス?」
 答える声は聞こえない。
 アメリカは、イギリスを暖めたいのかどうしたいのかも分からないまま、唇でイギリスの輪郭を辿ていった。

 暗い感情が沸き上がるのを、自覚する。

「冷えきってるくせに、起きない君が悪いんだからね…」
 イギリスが寒くないように毛布の隙間から身を滑り込ませ、アメリカは自分よりも一回りは細いだろうイギリスの体を抱き寄せた。
 首筋にもう一度口付けを落とす。今度は強く吸うようにして。わざと、痕を付けるようにして。
 ぐったりとしたまま、微塵も反応を返さないイギリスの体。白い体。このまま本当に起きなかったらどうしよう?

 自分たちは、人間とは違う。簡単に死なない代わりに、人間ではあり得ないことで消滅もする、という。

 何を言っても、何をしても、反応を返さないイギリス。
 目の前のイギリスの状態が分からないことが、酷く恐ろしかった。彼の中で何が起きたというのか。
 アメリカは恐慌状態に陥りそうだった。
 なぜ、心臓は動き、呼吸は正常なのに、体は冷たいまま目を開けようとしない?
 体を重ね、熱を与えるようにして抱きしめ、首筋に胸元にと唇を当てていく。痕を残していく。
「君の理想とかけ離れていく俺への当て付けなのかい? ねぇ、イギリス?」
 訳が分からないよ、そう低く呻く。
 暗い感情が蠢く。恐怖をごまかすように、その体を抱き締める。
 最早、自分でもイギリスの体を温めているのか貪り食っているのか分からない状態だった。ただ、ひたすらに抱き締め続けていた。
 何度も何度も、体を重ね合わせた。熱を与えたかった。感じたかった。
 何の反応も返さない冷たい体を、抱き締め続けた。
 自分は、何をしてるのか、そう頭の片隅で問いかける冷めた自分の存在に気付くが、アメリカは答えられるはずもなかった。
 何をしているのか、自分が聞きたいくらいだ。
「イギリス…」
 いったい、何を求めているのだろうか。
 僅かに残った冷静な自分がそう問い掛けるが、じんじんと痺れていく頭ではよく理解も出来ないままだった。
 ここにいるのは、自分ではないような、そんな錯覚に陥りそうになっていた。
「起きてよ、イギリス…」
 白い体を、ただ、抱き締め続けていた。










 途中で疲れ果て寝てしまったらしい。
 アメリカはもぞもぞと動きだし、時計を探した。ベッドサイドに埋め込まれたデジタル時計がまだ夜明け前の時間を示していた。
「イギリス?」
 相変わらず、反応は無い。が、体に温もりが戻ってきていた。寝息もすやすやと聞こえている。
「――――……」
 訳が分からないまま泣き出しそうな衝動に駆られ、アメリカは慌てて起き上がった。
 いきなり毛布を取られたイギリスが寒そうに身震いしていた。目は、覚ましていない。
「………」
 自分の横で体を丸めるようにして眠るイギリスの姿を見て、アメリカは絶叫しそうになる。必死に堪えたが。
 自分は何をした? 何をした?
 イギリスの体に残る鬱血の痕、痕、痕。
「思い出せ、思い出せ。最後までやってない。やってないよな?」
 ベッド上で膝を立てた状態で頭を抱える。
 なんか、途中で恐慌状態というのか、訳が分からなくなって、感情任せで動いてしまった記憶はある。が、その先だ。
 激情に任せて動いていたせいか、細かい部分が分からない。
 やったのか、やってないのか。
 そろそろと、イギリスの体に触れる。イギリスは軽く身震いするだけで起きる気配は未だ無い。
 その手をゆっくりと下へと移動させていく。跡があるかどうかを確かめるために。
 そっと触れていく。
「……ぅ…んん…」
 これ以上は確実にイギリスが起きる。
 アメリカは何を確かめたのか、頭を抱えた状態のまましばらく動けなかった。
 驚愕か安堵か。
「シャ、シャワー浴びるんだぞ」
 イギリスを起こさないように、そっと毛布を掛けてやり、アメリカはバスルームへと急いだ。
 ざっと体の汗を流すとすぐに上がる。
 体を拭い、手早く服を身に纏う。
 この部屋の鍵をテーブルに置き、イギリスの部屋だったはずの鍵はアメリカが持った。
 それから、備え付けのメモ用紙に、帰る時はこの部屋の鍵だけ締めてフロントに返すように書き留め、「先に帰るよ。 アメリカ」と最後に記す。
 自分の荷物を抱えあげて、アメリカは部屋を出た。
 フロントへはイギリスの部屋だった方の鍵を返した。パニックを起こしそうになる頭を必死に動かしながら、空港への道順を思い描く。
 と、ホテルからさほど歩かない内にドイツとイタリアに出くわした。
「…!?」
「モーニン! アメリカ。早いね、どうしたの? 俺はね、頑張って起きてドイツのランニングに付き合ってるところなんだぁ」
 引き攣るアメリカにイタリアが英語らしき発音で挨拶をしてくれた。その後に続く話は正直、聞こえてない。
 とりあえず、何か言わねば。
「グッモーニン…」
 ドイツ人の朝は早いと聞いていたが、本当に早いらしい。まだ、朝日も昇ってないぞ。
 アメリカはドイツを見遣る。
「イギリスはどうした? 昨日、お前を追いかけて雨の中を出ていったが、出会えたのか?」
 昨日の刺々しさはなくなっているが、触れてほしくない部分に直球で来た。
「雨…」
「今日は、晴れてよかったねぇ」
 イタリアが楽しそうに話している。
 イギリスは、自分を探して雨の中を歩き回っていたのか。それが、なんで雨の中で寝てたのか不明だが。
「イギリスは、まだ寝てるよ…。昨日は、その、悪かったんだぞ」
「気にするな。あれはお互い様だったからな」
「ああ、と。俺はもう帰るんだ。イ、イギリスに会ったらよろしく言っておいてよ!」
 じゃ!と手を上げて別れようとしたが、少々、遅かったらしい。
 泊まっていたホテルの部屋と思わしき窓が開いたかと思えば、イギリスが全裸のまま身を乗り出していた。
「アメリカァァァァァァ! てめぇ、何しやがったぁぁぁぁぁ!!!!」
「オーマイガッ!」
「いくら俺の国が裸に寛容とはいえ、限度があるぞ?」
「俺に言わないでくれよ!」
 生真面目な顔のままドイツに言われ、反射でアメリカは言い返していた。
 イタリアは怒りに震えているらしいイギリスの姿を見て、ドイツの陰に隠れてしまっている。
「な、ななな何もしてないんだぞ! それに、俺は雨の中の君を助けてあげたんだぞ!」
 もはや、恥も外聞も捨ててアメリカもホテルの窓に向かって大声で言い返す。
「ふざけんな! ケツが痛てぇんだよ! 馬鹿ぁ!」
「ぎゃあああああああああああ!!!」
 恥も外聞も捨てても、まだ更なる恥があった。
 アメリカは耳を塞ぎ、全力で駆け出す。
 ドイツがイギリスに向かって「静かにしろ!」と怒鳴り返していたが、それ以上にイギリスの羞恥と怒りは激しかったようだ。
「待ちやがれ、アメリカァァァァァ!!!」
 なんと、窓から飛び降りようとしている。
「ゴラァァ! その姿で出てくるな! 服を着ろ、服を!」
 突っ込むところ、そこじゃないよドイツ…と怯えきった顔でイタリアが呟くが、誰も聞き入れてはくれない。
 アメリカは、すでに遙か彼方である。
「説明しやがれぇぇぇ!! アメリカァァァァァァ!!」
 とりあえず、ブリタニア天使? そんな姿でホテルの窓から飛び出したイギリスは、アメリカを追い掛け始めていた。

 首を振り、ドイツはアメリカとイギリスが泊まっていたホテルへと向かった。
 鍵も荷物も置きっぱなしだろうと思われる為、その回収と説明の為である。
 色々と先が思いやられるな、とドイツは溜め息を澪す。
 昨日の様子ではかなり思い悩んでいたようだったが、まあ、あれはあれで、上手く行っているのだろうとドイツは思うことにした。
 関係の形など、それぞれだ。特に自分たち国の具現化などという特殊な存在には尚更。
 本当に、一筋縄ではいかない。その存在故に自分たちは。

 ドイツもまた何を思うのか、その口元を微苦笑が掠めた。









----------------------------
10.04.18

豪快に着地地点を間違えたという自覚はあります。………。

元々、英から見た独を語りつつ米英、独から見た米英を語りつつ普独、という2本立ての予定で話を考えていたせいで、冒頭でやたらとイギリスがドイツやプロイセンのことを語ってます。
視点を変えてみたかったんだ…
途中で分岐する予定でしたが、配布本でそのページ数はちょっと…という感じだったのと時間が無かったことから、 米英部分だけを書くことに。

途中で分岐するはずだった米英を語りつつの普独はその内に書いてしまいたいです。

 

タイトルは、まゆさんに付けていただいていたりします。
土壇場までいつも通りのセンスのない日本語タイトルしか浮かばず、泣き付いてお願いした…。  
APHは扱ってませんが、まゆさんの【サイト】
そして、表紙を土壇場になってNANA-SHI(ななし)さんに描いていただくという幸運に恵まれました。><
こんな格好いい絵を描いてくれたんですよぅ!   ななしさんの【サイトというか、ピクシブ】



戻る