真面目にやってるのに

 

 

 

 

 

 

「あれ…確か氷帝学園の生徒さんよね?」
「ええ、氷帝の制服のようですわ」
「随分と態度の宜しくない生徒さんがいますこと」
「伝統ある学園でも、やっぱり今時な子が多いのね」
「自由な校風も宜しいけれど、もう少し、…ねぇ?」
「本当ですわねぇ」

 そんな会話が離れた場所から聞こえてきていた。
 ひそひそと声を潜めてはいるが、車の往来も少ない通りのせいで意外と聞こえていたりするのである。
 四十代から五十代と思われる女性が五人。付近に住む主婦達が集まっての井戸端会議といったところだろう。

 始めは誰のことを言っているのかと思いつつも聞き流していたが、ふと周りに目を向けてみれば氷帝の制服を着た者は自分達しかいないことに気付く。

「えっ!? 俺達?」

 あまりのショックに滝は声に出してしまっていた。

「あ? 何?」

 滝の言葉に向日が思わず振り返ってしまう。

 あまりに勢いよく振り返られてしまった事に驚いた主婦達は、少し慌てたように「それじゃあ、夕飯の支度があるので」などと言いながら解散していった。

「…って!」
 余計に悪印象を与える結果になってしまったようで、宍戸は思いっきり向日の後頭部を叩いてやった。
「何すんだよ!?」
「あれ、絶対にお前のせいだぞ」
「ああ? 何で俺な訳?」
「どう見ても、お前にビビってたじゃねぇか」
「ざけんなよ! 俺のどこ見て態度が悪いなんて出てくんだよっ!?」

「あー。やっぱ、あれ、俺らのことやったん?」
「みたいだねぇ。凄くショック。心外だよ」

 向日と宍戸の言い合いを余所に、忍足が呑気な声で発言しそれに滝が答える。

「…ふぁぁ。なぁんだよぉ? うるさいなぁ…」
「全くだ。もう少し静かに出来ねぇのか、この愚民ども」
「何だと? 絶対、あのおばちゃん達が言ってたのって、宍戸と跡部とジロの事だぜ!」
「アーン?」
「このメンツで柄悪いのって、お前らだけじゃん!」

「…そりゃ言えとるな」

 ポツリと呟けば、凄い勢いで向日が同意を示す。

「だよな、侑士!」

 勝ち誇ったような笑顔の向日。

 余計な事を言ってしまったか。混乱は大きくなる一方だ。

「この俺様のどこが柄悪いって?」
「その態度全部だろうがっ。っつうか、俺はヤンキーじゃねぇぞ!」
「――ってさ、何で俺まで入ってんのー? 俺、超真面目じゃん!」
「どこがだよ!」
「えー? 俺のどこがヤンキー?」
「全部だ全部!」
「なに、それぇ?」
「だから、俺をこいつらと一緒にすんなよ!」
「そりゃ、俺様のセリフだ。馬鹿と一緒にすんじゃねぇ」

 忍足と滝は騒ぐ一行から少し距離を置いた。

 バス停の時刻表を覗き込み、無意味に時間の確認などをやって出来る限り関わらないように試みる。

「バス遅いねー」
「はよ来てくれへんかな」

 全く、恥ずかしくて敵わない。

 こんなアホな連中を捕まえて柄が悪いなんて、世間のおばさんはいったい何を見ているのだろうか。


「これでヤンキーや言うてたら、本当にグレとる奴らはどないな状態やねん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2005.9.25
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もしかしてジローはヤンキーか? と思ったことから始まった(笑)

原作のジロさんは可愛い印象を受けるが、アニメやゲームのジロさんの言動はかなりヤンキーっぽい。
逆に、アニメの跡部はどう見ても良いとこの坊っちゃんだが、原作の跡部はどっちかと言うと硬派っぽい雰囲気でしょうかね。
宍戸は、何をやっても怖い人と誤解されるタイプだと良い。真面目に授業を受けてても「真面目に聞け、宍戸!」とか言われてしまうタイプだと面白い。

 

 

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