修学旅行へ行こう! 〜後編〜
修学旅行出発日。
空港でジローが迷子になって探し回ったりという、相変わらずの賑やかぶりを発揮しながらテニス部メンバーで構成されたグループは日本を発った。
約十時間ちょっとのフライトを終え、ドイツへと入国をする。
その間、飛行機内で、腹減っただの、暇だのと騒ぐジローや向日の横で忍足はひたすら寝ていた。
いつの間にか、宍戸が二人の宥め役となっていて、時々、滝も宥め役になってくれるが、基本的に我関せずを通してくれた。
あまりの騒がしさに、先生に注意されること、五回。
最終的に跡部が切れてまた怒られた。
修学旅行 現地初日と二日目。
クラスごとで観光。
有名なお城や歴史的建築物を見て回るコース。
宿泊は、フランクフルトにあるホテル。
あまり、他の客と出くわさなかったところを見ると、ほぼ、貸し切り状態だった模様。
部屋割りは、跡部、宍戸、ジローの三人と忍足、向日、滝の三人の部屋。
寝ると言う忍足を向日が隣の跡部たちの部屋へ引っ張っていく。
暇を持て余していた滝も付いて来た。
お菓子を持ち込んで、わいわい騒ぐ。
テレビを見ていた跡部が何度も「うるせぇ!」と怒鳴るが、言うことを聞かず。
滝は「あまり騒ぐと先生に怒られるよー」と忠告はするが、基本的に勝手にお菓子をつまみながら、どこからか貰ってきたドイツのファッション雑誌を眺めている。
忍足が眠いと言う横で、ジローと向日がバタバタ騒ぐ。
あまりの騒がしさに、宍戸も避難してきた。
跡部と同じソファに座りテレビを見るが、さっぱり理解できず。
「これ、何の番組だ?」
「ニュースだよ」
「お前、判んの?」
「俺様を誰だと思ってる。馬鹿のお前と一緒にすんじゃねぇよ」
「へぇへぇ。何様俺様跡部様でございましたね」
嫌味を言ったら、蹴りが飛んできた。
仕返しにクッションを投げ付ける。 真横にいるので、嫌でもヒットした。
頭に来たのか、無言で跡部がクッションを使って宍戸の頭を思いっきり張り倒す。
ソファから転げ落ちながらも、跡部に蹴りを入れる。跡部も蹴り返す。
その内、険悪な雰囲気になっていくのが目に見えた。
「あーあ。あっちでも始まった」
滝が呑気に解説をしてくれる。
忍足が「誰か止めたってや」と嘆いた。
その内、騒ぎが外まできこえたのだろう。向日のクラスの担任教師が怒鳴り込んできた。
「お前ら、静かにしないか!! 向日!! 自分の部屋に戻りなさい!!」
騒ぎは一旦それで、静まった。
それから、一時間後。
またしても、向日が眠いと言い続ける忍足と暇そうな滝を引き連れて跡部の部屋にやって来た。
そして、またも大騒ぎ。
再び教師が怒鳴り込んできて、説教が始まる。
「そこに、三十分正座!!」
部屋の隅に正座させられ、延々、お説教された初日の夜。
二日目も似たようなものであった。
やはり、説教をくらった。しかし、二日目ともなると、要領の良い跡部と滝は正座で説教の難を上手く回避した。
巻き込まれて、正座させられた忍足と宍戸は気の毒の一言でしかなかった。
三日目。
午前中は、ドイツにある姉妹校に体験入学。
英語ならともかく、ドイツ語が話せる生徒は少ない。
皆が萎縮する中で、跡部だけが違和感なく溶け込んでいた。
ちなみに、ドイツでは英語もある程度は通じたりする。英語を勉強する生徒も多いため、英語がそこそこしゃべれる忍足や滝も、それなりに楽しんでいたようだ。
語学がほとんど皆無に近い向日と宍戸は、始終、跡部か忍足に付いて回った。
ジローは言葉を越えた交流に成功。
ジェスチャーとデタラメな日本語混じりの英語で何故か、コミュニケーションを取っていた。
午後から、自由行動となる。門限は夜の七時。
安全のため、指定された町中のみだが、それでも自由に動けるのは楽しい。
とはいえ、この日は、町並みを見て回るに終わった。
その夜。
連日と同じく大騒ぎ。
その内、なぜかクッションと枕を使っての枕投げが開始された。
ぎゃーぎゃー騒ぐ。
跡部が「うるせぇ!」と怒鳴っても、やはり静まらず。
それどころか、向日が投げた枕がテレビを見ていた跡部にヒット。
ゆらりと立ち上がる跡部。
「そこっ! 跡部まで参加しない!」
慌てて滝が宥めるが聞こえていない。
「上等じゃねぇか。てめぇ、掛かって来やがれ!」
「ああー。跡部、やめや。先生に怒られるの、俺、もう嫌や」
跡部の怒声に、忍足の嘆きは掻き消された。
跡部が向日に枕を思いっきり投げ返す。
それを避け、その隙を付いてジローが枕を投げてくる。それが、今度は宍戸に命中。
余程痛かったのか、目が据わっている。
当たった枕を力一杯握りしめ、
「てめぇら、ガキみたいなことやってんじゃねぇよ!!」
そう怒鳴って、宍戸も参戦。
「止めなよ。また、怒られるから」
滝が止めるが、やはり聞かず。
滝は諦めたのか、早々に距離を置いて避難に移る。
忍足も逃げれば良いのに、と思うが、思うだけで声は掛けなかった。声を掛けようにも大声を出さないと聞こえないような状態なのだ。
ここは、一人で安全地帯に入る。
「ガックン、ええ加減にせえや」
とにかく、止めようと必死の忍足。 その忍足に面白がってジローが飛び付く。
「だー!! ジローもええ加減にしいや」
「侑ちゃんも参加!!」
勝手な事を言って騒ぐ。問答無用で枕は飛んでくる。
「うわっ。だから、危ない言うとるやんか。俺がせっかく止めてやってんのに…」
嘆きは掻き消され、枕とクッションは飛び交い続ける。
誰も忍足の言葉などに耳を貸そうとしないのである。
「お前らなぁ、ええ加減にせえよ!!!」
とうとう、忍足も切れて参戦。
「あーあ…」
惨劇を眺めながら、滝は一人お菓子をつまんでいた。
「食らえ!! 破滅へのロンドだ!!」
ジローが跡部の真似と称して、枕をテニスのスマッシュのように打ち込んできた。
それをかわし、向日も枕投げ版「破滅への輪舞曲」を打つ。
真似られる跡部は、かなりご立腹。
それを見てバカ受けの忍足と宍戸。腹を抱えて大笑いしてくれる。
「はっ。本物の破滅への輪舞曲を見せてやるぜ!」
だんだんと論点がズレ始めていることに、彼自身気付いていないようだ。
「ちょお待て。お前、何する気や?!」
「マジになるなって!」
跡部の目が全く笑っていないことに気付いた忍足と宍戸が慌てて後退りした。
「覚悟は良いか?」
「良くねぇよ!!」
言いながら宍戸は部屋の隅へと後退するが、それよりも早く跡部が枕を掴み上げた。
「お前、枕投げでその構えは有り得ねぇって!!」
言うが、聞かず。
横投げで、強烈な枕が飛んでくる。
テニスの試合でいうならば、ジャックナイフと呼ばれる技に匹敵する威力であった。
まともに顔面に食らい、よろついた先にソファがあった。ソファに足を引っかけ、そのまま転倒。
それっきり動かない宍戸を視界の隅で確認した忍足は、顔を引きつらせた。
「よく見ておけ」
そう言って、忍足に枕が打ち込まれる。
「ま、待て。ちょお待て!」
忍足の制止も虚しく枕は見事にヒット。眼鏡が吹っ飛び、よろけた。
「っ痛ぅ…」
体勢も整わない内に第二弾の枕が打ち込まれた。これまた顔面にヒット。
「こんなん、枕投げちゃうわ…」
そう言い残し、忍足撃沈。
跡部は満足げに笑う。
「俺様の美技に酔いな…」
片手を掲げ、華麗に決めた。まるでテニスコートにいるかのような決めポーズである。
「おおー!! スゲー!!」
「かっちょE〜!!!!」
向日とジローの絶賛を受けて、跡部は大満足のようだった。
大人げない展開にて、枕投げ終了。
四日目も、自由行動。
これが最後の日程である。
お土産も買わねばいけない。
この時の為に、跡部をメンバーとして死守したのである。
「ねーねー、これ幾ら?」
「これ、何て書いとるん?」
「三ユーロ五セントって言われたんだけど、どれ出せばいいの?」
「なあ、これ買いてぇんだけど、何て言えばいい?」
「おい。これ、食べ物か?」
とにかく、質問攻めの跡部。
「こういう観光地は、英語もある程度通じるんだ。自力で買え!」
結局、切れて怒鳴る羽目になった。
帰りの飛行機内は、さすがに疲れて静かだと思われたが、ジローと向日は元気だった。
「頼むから、寝かせろや…」
座席が同じブロックの忍足は、またも嘆いた。
「うるせぇんだよ。静かにしやがれ!」
座席がシローたちの後ろの跡部も被害を被っているようだった。
騒ぎ声を聞きつけた教師が視線を向けてくる。
「ほら、静かにしてや。もう怒られとうないわ」
最後まで、嘆くことになる忍足であった。
2004.11.23
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枕投げで「破滅への輪舞曲」をやりたかっただけです。
ネタ提供:まゆさん。
ありがとう。書いてて、非常に楽しかったよ(笑)
読み手にとって面白いかは不明ですが、書いてる本人は面白かった。
榊監督が出てないのは、わざとです。
何となく、榊に叱られる跡部というのがイメージになくて。
想像できない。
原作とかでも、部活においては、監督以上に権力を握ってるとしか思えない跡部様。
どう見ても、試合に出るかどうかを決める事さえ監督の一存ではなく、跡部の意見が優先されてるし(笑)
しかし、枕投げをする舞台を修学旅行にするか、テニスの合宿にするか、かなり悩んだ。
合宿ならば、鳳や日吉も出せたわけで・・・。
合宿にすれば良かったかな、と気付いたのは、半分くらい書いてしまっていた時。
もういいや、3年生のみで、と開き直り。(この時は2年生ですが)
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