徹夜でゲーム・その後

 

 

 

 

 

「おお! 樺地。お帰りー!」

 テーブルの前を陣取って、跡部が買ってきた高級そうなお菓子を独り占めしていた向日が、扉を開けて入ってきた樺地に気付きそう声を掛けた。
 その声に跡部も振り返る。

「樺地、買ってきたか?」
「ウス」

 頷き、持っていた紙袋を差し出す。
 跡部が手を伸ばし受け取ろうとした横から忍足の手が伸びてその紙袋をかっさらった。
「おいっ」
「いいやんか。俺に開けさせてぇな」
 言いながら、すでにバリバリと袋を開けていた。
 出てきたのは、ゲームの攻略本。表紙はロリロリな女の子が十人寄り集まって微笑んでいるイラスト。

「やっぱ、詩織ちゃんが一番可愛いわ…」
「……」
「……」
「ウス?」

 白けた視線を向けてくる跡部と向日。意味が判らなかったのか、小首を傾げて聞き返す樺地。

「表紙に見とれてねぇで、さっさとゲームしようぜ」
 どの子が可愛いなどということには、さほど興味も無い宍戸がそう急かす。

「判った。じゃあ、さっさとセットしろ」
「俺かよ?!」
 問答無用でゲームのセッティングを命令される宍戸。彼が一番テレビの近くにいたせいもあるだろうが。
 文句を言いながらもゲーム機をセットしてくれる宍戸も、実にお人好しである。

「ほら、繋いだぜ」
 セット完了。
 流れるオープニング画面。
 面倒臭そうにオープニングを飛ばそうとする跡部に気付き、忍足が慌ててコントローラーを取り上げた。

「跡部、何で毎回オープニングすっ飛ばすねん。オープニングはちゃんと見なあかんやろ」
「何度も見て見飽きたんだよ!」
 またくだらない言い合いを始める二人。
「俺、オープニングなんか別に見なくても良いぜ」
「良くないわ、ど阿呆。俺は、オープニングの詩織ちゃんの可愛さをちゃんと堪能せな気が済まへんねん」
「一人の時に勝手に堪能すりゃいいじゃねぇか。うぜぇんだよ。樺地、コントローラーを寄越せ」
「ウス」
 申し訳なさそうにしながらも、忍足からしっかりとコントローラーを取り上げた樺地は、そのまま跡部に手渡した。
「あー!! 樺地に命令すんの、反則や。」
「ふん。うるせぇ」

 ゲームよりもゲームをする忍足と跡部の姿に興味があるだけの向日は、相変わらずテーブルに肘を付いて、のんびりとお菓子を食べている。
「なあ、オープニングなんかどうでもいいから、早く始めようぜ」
 単純にゲーム内容を見てみたいだけの宍戸は、さっきから寝転がってゲームが始まるのを待っているのだ。

「お前ら、オープニングを舐めたらあかん。ちゃんと……あー!!」
 忍足が話している隙に、跡部は遠慮無くオープニングをスキップした。
「なんやねん。お前ら、こんなんおもろないなんて言っておきながら、攻略本を買うほどハマってるやんか。なのに、なんでオープニングの良さが判らへんねん」
 悲しげに訴える忍足だが、跡部と宍戸は綺麗に聞き流している。

「始めからすんのか?」
「始めから見たいんだろ?」
「まあ、そうだけどよ」
「面倒なら、忍足がエンディング間近のデータ持ってるぜ」
「いや、別にいいよ」

 話している間にもゲームは進んでいる。

 日常の風景。
 舞台が自宅の部屋から、学校へと変わる。
 教室を目指し歩き始める主人公。
 いきなり、女生徒が登場した。話し掛けられ、さっそくコマンド入力を求められる。
 考えることなく、跡部は一つの選択肢を選ぶ。
 画面の女生徒の表情が曇った。
 いきなり、怒らせたらしい。

 爆笑する宍戸と向日。

「何で同じこと繰り返すねん、お前は。そこは絶対に二番目を選べ言うとるやろ…」
 忍足にまで呆れた口調で言われてしまった。
 不機嫌そうに跡部は画面を睨んでいる。

「樺地、攻略本」
「ウス」
 攻略本を大事そうに抱えていた忍足から、またも樺地は申し訳なさそうに取り上げる。
「俺が攻略本見て教えてやる言うてんのに…」
「うるせぇ。お前に指図されると、マジむかつく」
「うわっ。ひっどい。樺ちゃん、どない思う? こんなん友達に言うセリフあらへんやろ?」
「……ウ、ウス?」
「てめぇは、くだらねぇ事聞いて、樺地を困らせんな」
「なんやねん。くだらないこととちゃうわ」

「どうでも良いから、先に進めろよ」
 低レベルな言い争いを続けようとする二人に、宍戸が待ちくたびれたように言ってきた。

 宍戸の言葉に口を噤んだ跡部は、攻略本を広げてじっと眺める。長いことそうして動かない。
 もしかして、今、自分がどこをやっているのか判っていないのだろうか。
 静まり返る室内。
 堪りかねて口出ししようとする忍足を制して、宍戸が横から攻略本を見遣った。
「今、ここだろ?」
 そう言って、指先で指し示す。
「分かてんだよ、んなこと」
 どこまでも負けず嫌いな性格である。
「うそつけ。今のは、絶対に自分がおる場所判ってなかったやないかい」
「うるせぇ!」

 呆れる宍戸に、笑い転げたいのを必死で堪えている向日。
 忍足と跡部のくだらない言い争いは尚も続く。

 途中から、宍戸がコントローラーを取り上げた。
 向日も気になり始めたのか、一緒に攻略本を覗き込む。
「ここは、機嫌を取っておかないといけないって書いてるぜ」
「機嫌取るって言われてもなぁ。どれが機嫌を取るセリフなんだ?」
「判んねぇ…」
 意外と難しいゲームである。
「そこは、三番目じゃねぇの?」
 跡部がそう言い、宍戸は言われた通りにボタンを押す。

 相手が悲しみの表情になった。

「あとべー!!!」
「思いっきり嫌われてんじゃねぇかよ!!」

 跡部の言うことを聞いた俺が馬鹿だったよ、そう呟きながら宍戸は画面に向き直る。
「何だよ、この女は! 普通は、喜ぶだろうが」
 ゲームの女の子相手に文句を言ったところで、何の意味も無いとは判っているのだが、やはり腹が立つようだ。
「せやから、跡部は下手やって教えてやったやないかい」
「またくだ。ここまで、下手くそだとは思わなかった」
「うるせぇんだよ」

 次々と現れる女の子達。その度に対応を求められる。
「ええと、ここは…どうする?」
「やっぱ、オッケイでいいんじゃねぇ?」
「アホ! お前、さっき、まどかちゃんとデートの約束してたやろ!」
「あ! しまった。オッケイしたじゃねぇか」
「うっわぁ。どうなんの、これ?」
「そりゃ、デート当日に出くわして片方が怒って帰るに決まってるやん」
「……最悪ぅ」

 攻略本を見ながらプレイしても、この始末である。

「バーカ」
「うっせぇ。アホベは黙ってろ」
「んだと?!」
「アホベっつったんだよ、このアホ!」
「二度も言うな、宍戸の分際で!」
「何だと? 意味判んねぇけど、むかつく」
「はっ。意味が判らなくて幸いだったな」

 跡部の言葉に深い意味なんて無いと思う。向日はそう思いつつ、宍戸からコントローラーを奪い取り、忍足に渡した。
 これがエンディングを見る一番の早道だと、ようやく理解したのだ。

「ありがと、ガックン」
「なあ、侑士のお気に入りの詩織ちゃんのエンディング、見れる?」
「まかせとき」

 ダブルスコンビにゲームを奪われたことも気付かずに、尚も二人はにらみ合いを続けていた。




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2004.12.25

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ゲーム話の続編。
くまさんから頂いた「このあと樺地に攻略本買いに行かせて、徹ゲ−リベンジ希望」というお言葉から、調子に乗って書いてみた話。
くまさん、ありがと〜!!!

くだらない話ですが、書いてる本人はめちゃくちゃ楽しいです。

忍足がどんどんオタッキーになっていく(笑)

ちなみに、書き忘れてましたが、彼らがゲームしている場所は忍足の部屋。
土曜日で、お泊まりセット持参です。
徹夜でゲームする気満々な四人+巻き添えの樺地(笑)

 

書きながら悩んでしまったが、男性向けの恋愛シミュレーションゲームとギャルゲーの違いが判りません。
ギャルゲー=エロゲーですか?
始め、忍足の好みのゲームは「下級○」とか「同○生」(何となく伏せ字してみた)とかかなぁ、というイメージで書いていたが、後でこのゲームのサイトに行ったら思いっきり18禁のゲームで焦った。
あれ?? 下級○って、エロゲーだったっけ?

一応、彼らは中学生だし・・・。やむなく、とき○モのイメージで。

 

 

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