徹夜でゲーム

 

 

 

 

 

「あー。眠てぇ…」
「さすがに徹夜はこたえるわ…」

 だらしなく机に突っ伏す跡部と、その隣の席の椅子を勝手に拝借して座る忍足。やはり、跡部と同じように気怠そうに机に寄りかかっていた。

「ほんま、朝練が無くて良かったわ」
「あんなもんで、徹夜する羽目になるとは思わなかったぜ…」
「あんなもんとは、なんや。十分、おもろかったやないか」

 だらしない格好のまま繰り広げられる会話。
 学園内で一番有名なクラブの部長とそこの天才と呼ばれるプレーヤーの日頃の姿。
 テニスをやっている時とのギャップの凄さに戸惑う者もいるが、このクラスではいつものことらしい。一瞬、驚いたような顔をするものの、すぐに他のことへ興味を移す。

「朝っぱらから、何ダレてんだよ?」
 朝練の無い日は、遅刻ぎりぎりでくる向日が教室に入るなり駆け寄ってきた。

「あー。昨日な、跡部が俺の家に泊まってん。それで、徹夜でゲームしてもうたんや」

 跡部がお泊まり、という単語に女子達が騒ぐが、三人は気にもしない。
 むしろ、向日の驚きは別のところであった。

「ゲーム?! 跡部が? 跡部、ゲームとかすんの?」
「するだろ、ゲームくらい」
 まあ、彼も中学生である。ゲームくらいしてもおかしくないが。あまりにも彼のイメージとかけ離れているのか、向日は驚きまくっている。

「んだよ。俺がゲームしちゃ悪いのか?」
「そんなことないけどさ。……で、そんなに面白いゲームなのか?」
「面白くもねぇよ、あんなの」
「おもろかったやないか。お前、ぎゃーぎゃー騒いどったくせに、よう言うわ」
「騒いでねぇ。文句言ってたんだよ、あれは」
「だから、何のゲームだよ?」

 跡部は「くだらねぇ」という態度を変えようとせず、忍足はなぜか口籠もる。

「何やってんだ、お前ら?」
 隣のクラスであるはずの宍戸が、なぜか跡部たちの教室にいた。
「ああ? 何か用か?」
「おう。跡部、英語の辞書貸してくれ」
「後ろのロッカーに入ってる。勝手に持っていけ」
 サンキューと言いながら、本当に勝手に跡部のロッカーを開けて英語の辞書を取り出していた。
「次の時間には、ちゃんと返せよ」
「おう。判ってるって。…で? 何でだらけきってんだ、お前ら?」
「それがさ、この二人、徹夜でゲームしてたんだって。そのゲームが何のゲームが教えてくれねぇんだよ」
「エロゲーでもやってたんじゃねぇのかよ」

 うわ、最低。という女子の声が聞こえた気がしたが、気のせいではあるまい。

「んなもん、するかよ」
「エロゲーとちゃうで。そこまで落ちとらん」
「じゃあ、何だよ」
「……シミュレーションゲームってやつや」
「上に「恋愛」が付くシミュレーションな。ちなみに忍足のであって、俺のじゃねぇぞ」

 一瞬、固まる教室の空気。彼らの会話に聞き耳を立てていた者も少なからずいた証拠である。

 向日と宍戸は、このまま関わらずにこの場を去るべきか、と悩んだが、跡部が恋愛シミュレーションをやったという話題の方が魅力的でその場に踏みとどまった。

「ほう。跡部がねぇ」
「へぇ…」

 興味はあるのだが、どう突っ込んでいのか判らず、二人は堅いリアクションを返すだけに終わる。

「だから、面白くなかったっつってんだよ」
「宍戸、聞いたってや。こいつ、ゲームごときに注文が多いんやで」
「文句も言いたくなるだろ。どいつもこいつも可愛くない女ばっかで。いちいち機嫌伺いながらコマンド入力しなきゃなんねぇし。面倒くせぇよ」

 根本的に、俺様な性格で貢ぎ物に慣れているような跡部に恋愛シミュレーションゲームをさせようと思うこと自体が間違いのようだ。

「跡部は、経営シミュレーションとかシューティングの方が好みだろ?」
「ああ。そっちの方がよっぽど面白い」
「なんやねん。みんなしてコケにしよって。おもろいやんか。可愛いやんか」
 近くにいたクラスの女子の動きが固まる。それを横目で見ながら宍戸は忍足の肩をぽんと叩いた。
「そういう発言は、部室だけにしとけ。お前が言うと、マジでキモイ」
「そこまで言うか…」

 ゲームと言えば格闘ゲーム専門な向日は、会話にすら入れていない。それどころか、ダブルスのパートナーを嘆かわしいと言わんばかりの顔で見つめていた。
「なんや、ガックン。文句言いたそうやな?」
「べっつに…。それで、跡部は面白くないって言いつつ、徹夜でやってた訳?」

 面白くないなら、さっさと止めて寝ればいいものを。と、その場にいた全員が思ったことだろう。

「こいつ、文句言うくせに、振られると怒りおって。意地でも落とす言うて聞かへんねん。しかも、ほんま跡部はアホやで」
「うるせぇ!」
「入れるコマンドを、ことごとく相手を怒らせるものばかり選びよる」

 確かに、アホだな。
 宍戸と向日は心の中で突っ込む。

 それじゃ、いつまで経ってもクリアはできないだろう。

「そんなことでぎゃーぎゃー騒いでたら、夜明けやってん」

 馬鹿だ、こいつら…。
 宍戸が危うくそう口に出しかけたところで、予鈴が鳴る。
 深々と溜息を吐くと、
「まあ、程々にしとけよ」
 そう言って、自分のクラスに戻った。


「それで?」
「ああ?」
「それで、跡部は、一人でも落とせたのかよ?」

 素朴な疑問。そして、この会話を聞いていた誰もが気になることでもあった。

 跡部は眠さの為か、話題の為か、相変わらず凄まじい不機嫌ぶりである。机に突っ伏すような格好のまま動かない。
 僅かに聞こえた言葉は、
「さすがに、夜明け間際になってきたから止めて二時間だけ寝た」

 すかさず、忍足が言い放つ。

「落とせるわけないやん。まともなイベントすら起きへんかったんやで。ここまで間抜けなゲームする奴は初めて見たわ」

「お前に言われたかねぇよ。面白いゲーム貰ったから来いっつったくせに、行ってみればあれかよ」
「なんやねん。おもろいゲームやんか。世の中ではヒット商品なんやで!」


 どっちもどっちだ。
 それよりも、こんな調子で放課後の部活は大丈夫なんだろうか。

 そんなことを思いながら、向日は自分の席に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2004.12.14

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跡部はTVゲームとかするのかなぁ・・・という素朴な疑問から始まった話。
そしたら、忍足がオタクキャラまっしぐらって感じになった。ごめん;

跡部は、シムシティとかコンビニ作っていくゲーム(名前忘れた)とか、信長の野望とか、そう言ったシミュレーション系が得意そうなイメージが。
ガックンは、手っ取り早く決着の付く格ゲーかな。
努力の男・宍戸はRPGとかが好きそう。

おっしーだが、アニメの口調や雰囲気でオタクだったらすっげぇ怖いよね。
むっつりスケベ状態?(爆)

 

 

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