付き合いの良い人

 

 

 

 

 

「なぁ、ひよー」
「ひよって言うな」
「来週、宍戸さんの誕生日なんだよぅ。プレゼント渡したいけどさ、ひよは何が良いと思う?」
「お前、人の話聞いてるのか?」

 クラスが違うのに、休み時間になる度に日吉の元へ訪れる鳳。出てくる話題は「宍戸さん」のことばかり。
 俺が知るかよ、と突き放したところで、鳳は全く堪えない様子である。
「だから、来週が誕生日なんだってば。時間が無いんだよ。考えるの手伝ってくれよ」
 来週の水曜日が宍戸先輩の誕生日だということは、日吉だって三ヶ月も前から知っていた。毎日のように聞かされれば、嫌でも覚えるというものだ。

「何ヶ月も前から騒いでいて、まだ決めて無かったのか」
「だって。悩むんだから、しょうがないじゃないか!」

――だってって…。子供かよ、お前は。いや、中学生は十分に子供か。

 鳳の必死のお願いを聞き流しながら、日吉はそんな考えに耽る。

「ひよ、聞いてるのかよ?!」
「ひよは、止めろと何度言えば判る! だいたい、俺に聞かれても困る。樺地に相談しろ」
 そう言って、日吉の斜め後ろの席に座っている樺地を振り返った。
 いきなり話題を振られた樺地はきょとんと見つめ返す。
「樺地ー。宍戸さんに、何あげたら喜ぶと思う?」
「……鳳が、選んだものなら、何でも喜ぶと、思う…」
「だよなぁ! …って言ってもさ、俺、何を選べば良いのか判らないんだよ」
「…うう」
 さすがに樺地も宍戸の好みや今欲しがっているものなどは把握していないので、何とも言いようがないまま言葉を詰まらせた。

「二人ともー。何か良いアイデアない? 頼むよ、手伝ってくれよ」
「断る」
「日吉、冷たいよ、頼むよう」
「断ると言っている!」
「今日は部活ないだろ。だから、少しでいいから買い物に付き合ってくれよ」
「しつこい!」
「なあ、樺地はどう? 今日の放課後は無理?」
「……跡部さんとの、用事が終わった後で、いいなら」
「うんうん。構わないよ。ありがとう! 本当、樺地は優しいよな」
「俺は、断るからな!」
「何でだよぉ? 何か用事があるの?」
「別に用は無いが、嫌なものは嫌だ」

 ここで、大事な用があるとでも言えばいいものを、素直に答えてしまう辺りが誤魔化すことを良しとしない、真っ直ぐな日吉の性格を表しているように思われた。
 とはいえ、この場面では鳳の都合の良いように動いてしまうのは明らかだ。

「用が無いなら、良いよな? あ、予鈴だ。じゃあ、放課後に!」
「だから、俺は行かないからな!!」

 日吉の必死の叫びなど、鳳は聞いているはずもなかった。
 その姿を、斜め後ろの席に座る樺地が、気の毒という感情が半分と面白いという思いが半分という、複雑な眼差しで見つめていることに、日吉は気付かない。

 お人好しというのか、押しに弱いというのか。

 無愛想だとか言われることの多い日吉が、鳳の無邪気な言動に振り回されている様は、何とも言えない笑いをそそられる。

「くっそー。絶対に、俺は付き合わないからな…」
 頬杖を付いて、ぶつぶつと文句を言う。
 しかし、文句を言いつつも、放課後、鳳の買い物に付き合う日吉と樺地の姿が見られるのは確実であった。
 ぎゃあぎゃあと言い合いをしながら、宍戸の為のプレゼントを選ぶ姿を想像して、樺地は少しだけ口元を緩めた。

 それは、跡部くらしか気付かないような僅かな変化であったが、樺地はこれでも楽しい気分なのであった。


 なかなか良いチームメイトに恵まれたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

2005.1.30

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日吉が可愛いと思うこの頃。
特に、チョタに振り回される日吉が非常に好ましい。


宍戸さんの誕生日がいつか確認してないが(時期を外しまくっているのは確実だが)細かいことは、気にしないでください(笑)

 

 

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